冥華殿の奥深く――香がたゆたう寝所の薄明かりの中、雪白は静かに目を閉じていた。
その腹は今、小さな命を包み込む卵のようにふくれ上がっている。
夜叉丸の子を宿してから、雪白の体も心も大きく変わっていた。
最初は戸惑いと恐れ。未知の命を自分の中に受け入れることへの抵抗感。
しかし今は――その生命が、自分の胸に根付き、息づくのを感じていた。
「……生まれたら、どんな顔をするのだろうか」
雪白は小さく微笑んで、そっと腹を撫でた。白夜と名付けられるその子の胎動が、ゆさりと胸を打つ。
夜の闇の中、彼女の中に育まれる命。それは冥という無情な世界に、ほのかに差す灯火だった。



