冥華殿の奥深く、闇が静かに満ちるその場所に、異物はひそやかに忍び込んだ。

 

 それは現世から運ばれた供物の中に紛れた“黒い種”。

 誰の目にも見えぬ、ただの影のようなそれは、冷たい不協和音を放っていた。

 

 雪白が穏やかな呼吸で休む寝所に、その種は運命の一歩を刻む。

 

 (なぜ、こんな毒が――?)

 

 老医師・青霧の声が脳裏に響く。

 

 「神界の上位神、玄黄大臣が密かに放った神毒の種。これが王妃の胎を狙うもの――」

 

 胸の奥で、雪白の心は激しく揺れた。

 

 (私の胎内に宿った命が、まだ何者にも知られずに、毒に蝕まれているなんて……)

 

 その痛みは身体の奥深く、言葉にならぬ苦しみとなって襲いかかる。

 

 夜叉丸は、その知らせを受けるや否や、冷徹な闇の王の姿を取り戻した。

 

 「誰の仕業か」

 その問いに青霧は静かに答える。

 

 「神界の玄黄大臣。王妃の胎を破壊せんとする、狡猾な策謀であります」

 

 夜叉丸の闇色の瞳が、獰猛に燃え上がった。

 

 (神界はもはや、表面的な同盟など見せかけに過ぎぬ。俺たちを脅かす存在以外の何ものでもない)