これまでの過酷な日々が脳裏をよぎる。誰にも理解されず、ただ孤独に耐えてきた日々。
だが今、こうして彼の側で、冥界の王妃として迎えられている。
彼の温かい指先に触れられると、その重みが胸に深く沁みて、彼女の内側から何かが溶けていくようだった。
しかし、その幸福の影には、決して消えることのない不安が密かに潜んでいた。
(胸の痛みは……ただの疲れじゃない。何か、私の中で、違う何かが動いている……)
雪白は知らなかった。
その違和感の正体が、やがて彼女の胎内の命を脅かし、冥界の均衡を揺るがす恐ろしい毒であることを。
――まだ、闇の中に隠された“神の毒”の影は、誰にも見えていなかった。



