広場に集ったあやかしたちは、感謝の念を込めて頭を下げた。

 その中には、凛とした氷の瞳を持つ者、黒炎の髪をなびかせる者、形を持たぬ霧のような存在もいたが、誰もが雪白の言葉に耳を傾けていた。

 

 (ここに、私の居場所があるのだとしたら――)

 

 胸の奥に、ほんの少しだけ、幸福の種が芽吹くのを感じた。

 

 ある日の夜。
 冥華殿の寝所には、静かな時間が流れていた。

 夜叉丸は雪白の側に腰を下ろし、彼女の疲れた顔を見つめる。

 

 「雪白。……食が進んでいないな」

 

 その言葉には心配が滲み、いつもの冷徹な冥王の顔はどこにもなかった。雪白は小さく息を吐き、視線を落とす。


 「……少し、胸が苦しくて」

 
 一瞬の沈黙。それから夜叉丸は決然と言った。

 
 「冥の医師を呼ぶ。今宵は政から外れて、休め」

 
 その言葉に、雪白は首を横に振る。


 「……申し訳ありません。今の私にできることを、全てしたいのに」

 

 しかし、夜叉丸は彼女の髪に指を這わせて、優しく囁いた。

 

 「その身が在ることこそが、冥の力だ。何もせずとも、お前は“冥を咲かせる者”だ」

 

 雪白の瞳に、溢れそうな涙が光る。

 

 (こんなにも、大切にされる日が来るなんて……)