彼の言葉に、雪白の心がわずかに揺れる。
 夜叉丸の瞳は、いつものような冷ややかな冥の光ではなかった。

 彼もまた、彼女と同じく、今日という日を怖れていたのだ。



 「……わたしは、貴方のものになってもいいのですか?」

 「冥の王としてではなく、一人の男として、誓いたい。貴様だけを、愛すると」


 夜叉丸は、そっと彼女の頬に触れる。
 その手は温かくて、過去に一度も感じたことのない人の熱を宿していた。



 「雪白。……この夜、正式に契りを交わそう」

 「……はい」


 雪白の声は、静かに震えていた。けれど、その瞳はまっすぐ夜叉丸を見つめる。


 (きっと、この人となら、何が起こっても……)



 心がそう呟いた瞬間、雪白は頷いた。