「夜叉丸様が……私じゃない誰かを選んだら」



 そう呟いた瞬間、胸が締めつけられ、視界が滲んだ。

 そのとき、ふと闇の中に、かすかな笑い声が混ざった。


 「姉様……本当に、哀れですわね」


 その声は――霞。

 神鏡を通して現れたその姿は、かつての妹ではなくなっていた。


 「わたくし、神界で“次代の神子候補”に選ばれましたの」


 霞は誇らしげに微笑んでいた。


 「姉様も、そろそろ“自分の居場所”がどこか、悟られたほうが……」


 雪白は唇を噛みしめ、霞に背を向けた。


 (それでも……)


 「私は、冥に咲く。夜叉丸様のそばで」



 背後で、神鏡がひび割れる音がした。