夜叉丸の前では、朝霧は穏やかに微笑む。
夜叉丸も表面上は拒まぬまま、その申し出を一部受け入れる形となった。
夜叉丸の視線が朝霧に向けられるたび、雪白は言いようのない焦りと痛みを覚えた。
(……また、“私じゃない誰か”が……)
誰かと比べられ、劣っていると感じたあの日々が、蘇る。
「……夜叉丸様」
そう問いかけようとしても、声が震えて出てこない。
その夜、雪白は一人、冥の庭に佇んでいた。夜照華の花が、冥火に揺られてかすかに光っている。
「……怖いの。奪われるのが」
自分の居場所が。
夜叉丸の隣が。
やっと得た“名前”が。
――朝霧様のような輝きを、私は持っていない。



