そんな、声にできぬ懼れ。
「……貴様はすでに、我の許にある。それ以上、何を求める」
唐突に背後から聞こえたその声に、雪白は驚いて振り向いた。
そこには、漆黒の装束に身を包んだ夜叉丸の姿。
冥の闇に溶けるようなその男の眼差しは、どこか憂いを帯びていた。
「夜叉丸様……」
「貴様が欲するものが何か、我には見えぬ……だが、答えを求めるなら、見せてやる。冥の王の花嫁とは、何たるかを」
その言葉の奥には、確かに“愛”があった。
けれど、雪白の胸の棘は、簡単には抜けない。
(わたしの居場所は……彼の隣であっていいのだろうか。自信が、持てない)



