― 冥花の姫に挑む、新たな“光”の影 ―


 冥華殿の夜は、沈黙とともにあった。

 夜叉丸の影が静かに蠢く庭を、白き衣の雪白がひとり歩いていた。
 冥火の光が彼女の髪に淡く揺れ、紫の瞳に翳を落とす。
 

 「……夜叉丸様。わたくしは……」
 

 彼女は呟く。
 声は冥の闇に吸い込まれて、誰の耳にも届かない。

 それでも、言葉は止められなかった。


 「本当に、“冥の花嫁”になれるのでしょうか……」


 自問のように洩れたその言葉に、応える声はなかった。けれど、雪白の胸の奥で、脈打つように“契りの印”が熱を持つ。

 それは、夜叉丸との初めての“口づけ”が与えた証。
 冥に生きる者として、冥に咲く花として、与えられた唯一の意味だった。

 けれど。
 

 (それだけでは……足りないのです)