夜叉丸だった。
闇を裂くようにして現れたその姿は、いつも以上に威厳に満ち、まるで冥そのものが歩いているようだった。
「この場は冥の名の下に預かる。貴様らの儀は無効とする」
彼の足元から広がる影が、霞と比左古を呑み込もうとする。
霞が叫ぶ。
「夜叉丸様! この女が姫などと……っ、冗談じゃありません!」
しかしその時、雪白が小さく首を振った。
「待ってください、夜叉丸様。……私が、自分で終わらせたいのです」
雪白は一歩、霞の前に進み出た。
「霞。……あなたが何を思っていようと、私はもう“あなたの妹”ではありません。私は冥の姫、夜叉丸様の花嫁です。それを、あなたに認めてほしいとは思わない……けれど、あなたの言葉に怯える私では、もうないの」
そして静かに背を向けた。
「さようなら、霞。どうか、あなた自身の場所で咲けますように」
霞は、その背中を見つめるしかできなかった。
まるで、自分が“負けた”と認めたかのように――。
その場にいた全員が、雪白に心を奪われていた。



