掌から零れた白銀の光は、まるで冥界の月明かりのように静かに、そして厳かに社の空気を塗り替えていく。

 社殿を包んでいた赤黒い霧が、雪白の足元からひと筋の風に吹き払われるように揺れ、やがてふわりと晴れていった。

 霞の張り巡らせた呪が崩れ、比左古の持っていた呪符がぱちぱちと音を立てて燃え上がる。


 「な……なに……この力……」


 霞が息を呑み、目を見開いたまま後ずさる。

 だが、雪白は何も言わずにただ一歩、前へと進む。

 背筋を伸ばし、花嫁装束のような冥の衣が音もなく揺れる。
 胸元に輝く“冥の契り”の印が、あやかしと神の両方に、彼女が“冥の花”であることを示していた。


 「私の名は、雪白。冥の姫として、冥の誇りと共にここに立ちます」


 その声は澄み渡る水のように、しかし凛として響いた。