春祭が始まり、現世の神や民たちが集う社の前。
 雪白は「冥の姫」として高座に座らされる。

 霞は祭壇の端から狡猾に笑みを浮かべ、比左古が背後で呪符を見せる。
 その声は鋭く、しかし社中には冷たい空気だけが漂った。


 「雪白様……加護なき落ちこぼれが、冥の姫などとは不遜では?」


 雪白は吠え返すことなく、ただ顔を上げた。
 そのまなざしには、不安ではなく覚悟と誇りが宿っていた。


 「私は、ここにいるべき者です。冥を愛し、この祭に咲く“花”だから」


 その言葉が、周囲を凍りつかせる。
 霞と比左古は顔色を変え、比左古が呪詛を操り赤黒い霧を舞台に流し込んだ。



 雪白の胸に怒りが灯った。
 それは侮辱に対する感情ではなく、自分が歩んできた道すべてに対する誇りであった。


 (これまでの私を、すべて認めてほしい)


 その瞬間、冥の力が胸元に流れ、冷たい力が身体を駆け巡る。