雪白の掌から白銀の花が生まれ、霞と比左古を包み込む。
二人は叫び声をあげ、やがて霧の中に溶けていった。
「――これが、冥の誇りだ」
騒然とする社の中で、雪白はゆっくりと頭を上げた。
眩いばかりの凛とした姿がそこにあった。
祭に集った者たちは息を呑み、誰もが雪白を見つめる。
加護なく、世に疎まれた彼女がここに“咲いた”ことを、誰もが否定できなかった。
その夜。冥華殿に戻った雪白のもとに、夜叉丸が静かに寄り添う。
「よくやった。貴様の誇りは、確かに世界に示された」
雪白は笑みを浮かべながらも、どこか切なげに呟いた。
「まだ、わたしを憎む者は多い……。でも、あの場で負けたくなかった。負けたくない」
夜叉丸はその言葉を胸に刻み、強く抱き寄せた。
「俺が守る。貴様が花を散らさぬように、守り抜く」
その唇が雪白に触れたとき、彼らの絆は一層深まった。
――しかし、物語はまだ序章に過ぎなかった。
霞は陰に潜み、復讐の機会を虎視眈々と狙う。
比左古は新たな呪術を学び、闇に身を沈めていく。
神界の高位者たちも動き出し、冥と現世の均衡は、今まさに崩れかけていた。



