過去の自分。誰かに微笑んでいた。
 夜の花々の中で、誰かに抱きしめられていた。


 (あれは……本当に、私……?)


 「遠い昔、貴様は俺の妃だった。冥の姫として、冥華殿に咲いた唯一の花」

 「……だけど、私は……もう、わからない」

 「ならば、もう一度咲け。記憶ではなく、今の心で。俺はそれを望んでいる」


 夜叉丸の言葉が、深く胸に響く。

 この人は、何百年も何千年も、ずっと――自分を待っていた。

 魂だけを手がかりに。

 どんな執着だろう。それは常軌を逸した想いかもしれない。

 けれど、雪白は……うれしかった。

 誰にも望まれなかった自分が、誰かの“唯一”として待たれていたことが。