目を覚ました瞬間、雪白は一瞬、息を飲んだ。
そこは――あまりにも静謐で、荘厳な世界だった。
漆黒の空。永遠の夜に包まれた庭園。
頭上には星々が凍てつくように瞬き、足元には、黒い花が咲き乱れていた。
紅、紫、深藍、墨のような濃淡が織りなす花々が、月なき夜を彩っている。
(ここが……冥の国)
あたりには人気がない。だが、不思議と孤独ではなかった。
冷たさのなかに、しんしんと優しさのある空気が漂っている。
雪白はゆっくりと身を起こした。
自身が横たわっていたのは、黒曜石のような光沢をもつ寝台だった。
周囲には金の燭台が灯され、柔らかくも荘厳な光が揺れている。
(まるで……)
言葉にできない。現世のどこにもない、別の世界の美しさだった。
すると、扉の向こうから足音が聞こえた。
「目覚めたか、雪白」



