(わたしを……否定しない世界)

 誰も踏みにじらない世界。
 誰かの影ではなく、自分として呼ばれる場所。

 雪白は――ゆっくりと、首を縦に振った。


 「……行きたい。……わたし、行きたい」


 その答えに、夜叉丸は一瞬、目を見開いた。
 そして、深く頷いた。


 「ならば、手を取れ。雪白」


 差し出された掌に、自分の指を重ねる。
 夜叉丸の手は、冷たいのに、なぜか一番、あたたかかった。

 

 空が裂けるように、闇が広がった。

 白銀の夜が、黒い光に包まれていく。

 雪白の身体は、夜叉丸の腕の中で浮かび――そして、現世から切り離された。

 

 冥の夜へ。

 冥の君のもとへ。

 運命の糸が、静かに結び直されていった。