「貴様の名は、雪白――で、間違いないな」 「……はい」 名を呼ばれた瞬間、胸が小さく震えた。 雪白は名を呼ばれることに、長らく慣れていなかった。 家では呼び捨てか、憐れむような言い方でしか呼ばれなかった。 侍女たちは陰口でしか名を出さず、父は顔すらまともに見てくれなかった。 けれど、夜叉丸の声音は違った。 冷たくもない。優しさとも違う。 ただ、まっすぐに、自分という存在を「確かに見ている」――そんな呼び方だった。