「……だれ……ですか……?」


 喉がかすれて、ようやく声になる。

 男は微かに唇を動かし、名乗った。


 「夜叉丸。冥の境に棲む者。人の世では、あやかしとも、死神とも呼ばれている」


 淡々とした声音。けれど、その言葉のひとつひとつが重かった。


 「……あやかし……?」

 「そう怯えるな。俺は貴様を喰らうために来たわけではない」



 夜叉丸はひとつ溜息をつくと、足元に長い裾を翻した。
 その動作すらも、どこかこの世のものとは思えぬ優雅さだった。