「……別に、いいといえばいいですけど……私、教えるの大して上手くないと思いますよ……」
「えー、三国は教えるの上手かったよ」
桜井くんの声に振り返ると、カフェオレを飲みながら戻ってきたところだった。そのまま「こんにちはー」「……こんにちは」と背後の雲雀くんと揃って蛍さんと能勢さんに挨拶する。
「……お前、飲みながら先輩に挨拶してんじゃねーよ」
「あー、あー、そっか」
「マジで三国見習え、マジで」
コイツちゃんと立って挨拶したんだぞと蛍さんが指をさすけれど、桜井くんは「えー、三国えらっ」とどこ吹く風だ。
「てか蛍さん何してんですか?」
「お前にケータイ買えって言いにきたんだよ!」
「ああ、それは本当に俺もそう思う」
つい先日、桜井くんの家の前で待ちぼうけを食らわされた雲雀くんのセリフだと含蓄がある。経験者は語るというヤツだ。
「お前がどこいるのか全然分かんねーし、でもってあっちこっちウロウロしやがるし、気付いたら家に帰ってるし、猫か? って感じだな」
「猫でも犬でもなんでもいいけど、首輪はつけろよ雲雀」
「なんで俺が」
「保護者か飼い主だろお前が」
「殴っていいですか」
「先輩に殴っていいかとか言うんじゃねえ」
「先輩だから聞いたんですけど」
桜井くんも雲雀くんも、多分群青の下っ端として蛍さんに敬語を遣うことにしたのだろうけれど、その態度には大した変化はない。先輩だから殴る前に確認するのだって、いまいち敬意の基準が分からなかった。
そして携帯電話を買えと言われた桜井くんは「うーん」とカフェオレのストローを口から離さないまま腕を組む。
「だって、父さんいないとケータイ買えないじゃないですか。暫く無理っす」
「いつなら無理じゃねーんだよ」
「うーん、お盆くらい?」
「面倒くせーな、それまで雲雀を伝書鳩にすっか」
「イヤですよ」
雲雀くんの返事は冷ややかで、かつ早かった。
「で、胡桃は何やってんの」
「もう蛍先輩と全く同じ。早くケータイ買ってほしくて」
牧落さんは蛍さんと同じく手近な椅子を引いて座り込んだ。この椅子の持主である男子はきっと内心ガッツポーズだ。
「昨日、夕飯届けに行ったのにいなかったじゃん。どこ行ってたの?」
「昨日は侑生と飯食ってた」
「もう侑生と付き合えばいいのに……」
今度は雲雀くんは無言だった。前回牧落さんが来たときのことと蛍さんへの対応とをあわせて考えると、これが雲雀くんなりの距離感なのかもしれない。
「今日の夜は? いるの?」
「多分いる」
途端に雲雀くんが呆れ顔で「お前今日集会だつったろ。夜に予定入れてんじゃねえ」「あ、そうだった無理、いない」……本当に雲雀くんと付き合ったほうがよさそうだ。その様子を見ている蛍さんは小刻みに足を揺らしているので、多分イライラしている。
「お前、マジで喧嘩以外能なしか? 初っ端から集会すっ飛ばしやがったらお前の頭をすっ飛ばすからな」
「え、こわ。侑生、集会の日絶対声かけて。1人で行かないで」
「知らねーよ」
「ていうか集会ってなに?」
特別科にいる牧落さんからすれば、不良なにそれ化石?なんて思えているだろう。いや、桜井くんが幼馴染だから、辛うじて絶滅危惧種くらいに認識しているのかもしれない。いずれにしても、牧落さんに無縁な話であることには変わりない話ではあるからか、桜井くんはひらひらと手を振った。
「あー、群青の話。胡桃関係ないよ」
「えー、三国は教えるの上手かったよ」
桜井くんの声に振り返ると、カフェオレを飲みながら戻ってきたところだった。そのまま「こんにちはー」「……こんにちは」と背後の雲雀くんと揃って蛍さんと能勢さんに挨拶する。
「……お前、飲みながら先輩に挨拶してんじゃねーよ」
「あー、あー、そっか」
「マジで三国見習え、マジで」
コイツちゃんと立って挨拶したんだぞと蛍さんが指をさすけれど、桜井くんは「えー、三国えらっ」とどこ吹く風だ。
「てか蛍さん何してんですか?」
「お前にケータイ買えって言いにきたんだよ!」
「ああ、それは本当に俺もそう思う」
つい先日、桜井くんの家の前で待ちぼうけを食らわされた雲雀くんのセリフだと含蓄がある。経験者は語るというヤツだ。
「お前がどこいるのか全然分かんねーし、でもってあっちこっちウロウロしやがるし、気付いたら家に帰ってるし、猫か? って感じだな」
「猫でも犬でもなんでもいいけど、首輪はつけろよ雲雀」
「なんで俺が」
「保護者か飼い主だろお前が」
「殴っていいですか」
「先輩に殴っていいかとか言うんじゃねえ」
「先輩だから聞いたんですけど」
桜井くんも雲雀くんも、多分群青の下っ端として蛍さんに敬語を遣うことにしたのだろうけれど、その態度には大した変化はない。先輩だから殴る前に確認するのだって、いまいち敬意の基準が分からなかった。
そして携帯電話を買えと言われた桜井くんは「うーん」とカフェオレのストローを口から離さないまま腕を組む。
「だって、父さんいないとケータイ買えないじゃないですか。暫く無理っす」
「いつなら無理じゃねーんだよ」
「うーん、お盆くらい?」
「面倒くせーな、それまで雲雀を伝書鳩にすっか」
「イヤですよ」
雲雀くんの返事は冷ややかで、かつ早かった。
「で、胡桃は何やってんの」
「もう蛍先輩と全く同じ。早くケータイ買ってほしくて」
牧落さんは蛍さんと同じく手近な椅子を引いて座り込んだ。この椅子の持主である男子はきっと内心ガッツポーズだ。
「昨日、夕飯届けに行ったのにいなかったじゃん。どこ行ってたの?」
「昨日は侑生と飯食ってた」
「もう侑生と付き合えばいいのに……」
今度は雲雀くんは無言だった。前回牧落さんが来たときのことと蛍さんへの対応とをあわせて考えると、これが雲雀くんなりの距離感なのかもしれない。
「今日の夜は? いるの?」
「多分いる」
途端に雲雀くんが呆れ顔で「お前今日集会だつったろ。夜に予定入れてんじゃねえ」「あ、そうだった無理、いない」……本当に雲雀くんと付き合ったほうがよさそうだ。その様子を見ている蛍さんは小刻みに足を揺らしているので、多分イライラしている。
「お前、マジで喧嘩以外能なしか? 初っ端から集会すっ飛ばしやがったらお前の頭をすっ飛ばすからな」
「え、こわ。侑生、集会の日絶対声かけて。1人で行かないで」
「知らねーよ」
「ていうか集会ってなに?」
特別科にいる牧落さんからすれば、不良なにそれ化石?なんて思えているだろう。いや、桜井くんが幼馴染だから、辛うじて絶滅危惧種くらいに認識しているのかもしれない。いずれにしても、牧落さんに無縁な話であることには変わりない話ではあるからか、桜井くんはひらひらと手を振った。
「あー、群青の話。胡桃関係ないよ」



