「あ! 知ってます、蛍永人さん!」牧落さんは丸く開いた口を手で押さえて「え、ていうか昴夜も群青のメンバーになったんですよね? えーっといつもお世話になってます? とか言うべきですか?」
「完全に彼女ポジじゃん。いーな、アイツ」
そう言うわりに、蛍さんは牧落さんにあまり興味がなさそうだった。いかんせん、他の男子と違って牧落さんに視線を向けず「三国、さっき話しかけたことだけどさあ」なんて私に向かって話を続けるのだ。
「お前、バイトとかしてるか? 基本暇か?」
「……まあ、暇、ですけど」
今度は一体何の情報だ……と警戒していると、蛍さんは「実はなあ……」と俄然真剣な顔になった。
「群青のバカどもに勉強教えてやってくんねーかと思ってな」
「……はい?」
予想の斜め上をいく返事に素っ頓狂な声が出た。でも蛍さんの顔つきはさっきまでと変わらない。
「勉強……を……?」
「まあいつものことなんだけどな、今のメンツもどうにもバカばっかなんだよ。中間の結果がひでえのなんの」
「赤点だらけでね。このままだと2年も3年も留年する危機なんだよ」
能勢さんがにこやかに付け加える。でも能勢さんは頭がいいと荒神くんが話していたような……と考えていると「あ、俺はね、もちろん全く問題ないけどね」とのことだった。
「|留年する(ダブリ)なんてだせーだろ。だから勉強しろつってんだけど、しろっていってできるならこんな酷いことなってねーんだよな」
「……でも、その、じゃあ能勢さんが教えればいいんじゃないでしょうか……。あと雲雀くんも勉強できますし……」
「あのバカども、20代の女教師かせめて女子にしか教わりたくねえとか抜かしやがる」
ああ、なんて欲望に忠実なのだろう……。思わず苦笑いしてしまった。なるほど、それで私に白羽の矢が立ったと。
「だからお前が教えてやってくんねーかと思ってな。群青の紅一点だし」
能勢さんばかり見ていた陽菜の目が、後半を聞いた瞬間に私に向いた。そういえば群青のメンバーになっただのなんだのの話はしていない。
「もしかして私が誘われたのって、群青の人達に勉強を教えるためですか?」
それはほんの、ほんの冗談だったのだけれど、蛍さんと能勢さんは顔を見合わせた。
「まあ、半分そうだな」
「いや俺は知らないですよ」
「半分……」
もう半分は一体なんなのだろう。群青のメンバーに勉強を教えるなんてふざけた理由だし、それと釣り合う理由と考えると大した理由ではないように思えるけど、本当にそうだろうか。
考えられる理由としては、やっぱり桜井くんと雲雀くんを引き入れるためだけど、それならこの間の拉致で事足りた話だし……。釈然とはしないけれど、ただその疑問をここで口には出せなかった。
「いまの2年にも留年して2回目の2年やってるやついるんだけど、まー、腫れ物扱いだよね。特に群青の3年なんて、先輩中の先輩だから。2年にとっては居心地悪いのなんの」
「お前特別科なんだから群青のダブりはいねーだろ」
「だから俺は関係ないですよ。他の2年がやりづらいって話してて」
確かに一般論として教室内に留年した人がいると気まずいか……。まさしく能勢さんのいう腫れ物扱いをしてしまう人がいるのは理解できる。しかもそれが群青、体育会系以上に上下関係がはっきりしていそうな団体となると猶更かもしれない。
「完全に彼女ポジじゃん。いーな、アイツ」
そう言うわりに、蛍さんは牧落さんにあまり興味がなさそうだった。いかんせん、他の男子と違って牧落さんに視線を向けず「三国、さっき話しかけたことだけどさあ」なんて私に向かって話を続けるのだ。
「お前、バイトとかしてるか? 基本暇か?」
「……まあ、暇、ですけど」
今度は一体何の情報だ……と警戒していると、蛍さんは「実はなあ……」と俄然真剣な顔になった。
「群青のバカどもに勉強教えてやってくんねーかと思ってな」
「……はい?」
予想の斜め上をいく返事に素っ頓狂な声が出た。でも蛍さんの顔つきはさっきまでと変わらない。
「勉強……を……?」
「まあいつものことなんだけどな、今のメンツもどうにもバカばっかなんだよ。中間の結果がひでえのなんの」
「赤点だらけでね。このままだと2年も3年も留年する危機なんだよ」
能勢さんがにこやかに付け加える。でも能勢さんは頭がいいと荒神くんが話していたような……と考えていると「あ、俺はね、もちろん全く問題ないけどね」とのことだった。
「|留年する(ダブリ)なんてだせーだろ。だから勉強しろつってんだけど、しろっていってできるならこんな酷いことなってねーんだよな」
「……でも、その、じゃあ能勢さんが教えればいいんじゃないでしょうか……。あと雲雀くんも勉強できますし……」
「あのバカども、20代の女教師かせめて女子にしか教わりたくねえとか抜かしやがる」
ああ、なんて欲望に忠実なのだろう……。思わず苦笑いしてしまった。なるほど、それで私に白羽の矢が立ったと。
「だからお前が教えてやってくんねーかと思ってな。群青の紅一点だし」
能勢さんばかり見ていた陽菜の目が、後半を聞いた瞬間に私に向いた。そういえば群青のメンバーになっただのなんだのの話はしていない。
「もしかして私が誘われたのって、群青の人達に勉強を教えるためですか?」
それはほんの、ほんの冗談だったのだけれど、蛍さんと能勢さんは顔を見合わせた。
「まあ、半分そうだな」
「いや俺は知らないですよ」
「半分……」
もう半分は一体なんなのだろう。群青のメンバーに勉強を教えるなんてふざけた理由だし、それと釣り合う理由と考えると大した理由ではないように思えるけど、本当にそうだろうか。
考えられる理由としては、やっぱり桜井くんと雲雀くんを引き入れるためだけど、それならこの間の拉致で事足りた話だし……。釈然とはしないけれど、ただその疑問をここで口には出せなかった。
「いまの2年にも留年して2回目の2年やってるやついるんだけど、まー、腫れ物扱いだよね。特に群青の3年なんて、先輩中の先輩だから。2年にとっては居心地悪いのなんの」
「お前特別科なんだから群青のダブりはいねーだろ」
「だから俺は関係ないですよ。他の2年がやりづらいって話してて」
確かに一般論として教室内に留年した人がいると気まずいか……。まさしく能勢さんのいう腫れ物扱いをしてしまう人がいるのは理解できる。しかもそれが群青、体育会系以上に上下関係がはっきりしていそうな団体となると猶更かもしれない。



