ぼくらは群青を探している

 “伸びた気がする”という返事ではなく、なんなら細かい数字まではっきり出てきたということはそういうことだ。桜井くんは「え、うん、ほらあの柱でせっせと」となんでもないように頷く。前は口先でしか身長を気にしていなかった気がするので、桜井くんの中でなにか意識が変わったのだろう。……なんの意識かは見当もつかないけど。

「てか、紅鳶神社でなにすんの?」
「……いや、その……」

 桜井くんは、本当に何も察していないのだろうか。もし察していないなら、このまま逃げ切れるだろうか。

「……夏祭りの日、黒烏の2人組が私の写真を撮ったでしょ。あの写真のデータが入ったSDカードが残ってればいいなと思ったの」
「は?」

 怒ったようには聞こえなかった。ただ、まるで有り得ない発想でも聞かされたかのような素っ頓狂な声で、視界の隅では座っている人が顔を上げた様子が目に入ったほどだった。

「何言ってんの?」
「残ってるわけないよね、分かってる。SDカードを壊してもらったことは分かってる、でもなにか黒烏との衝突を避ける方法が見つかればと思って……」
「俺、そういう話はしてないよ。それデータあったところでどうすんの?」

 ……どうやら、桜井くんは気付いていないらしい。半分嘘で半分本当の策に乗っかってくれたことに一瞬胸を撫で下ろしたものの「英凜がレイプされかけてる写真を黒烏にばら()くの?」予想外の剣幕に(ひる)んでしまった。

「別にばら撒くわけじゃ……」
「んじゃどうすんの? 見せて回んの? それ見せたところで何言われるか分かってんの? 自作自演だとか、よく見せろとかデータ寄越せって言われるだけだよ」

 予想外どころか、桜井くんの言動として想定できないほど語気強く追い討ちをかけられる。

「……でも、黒烏が喧嘩を売ってきたのは私の一件のせいだし……」
「英凜のせいじゃないじゃん。永人さんもツクミン先輩も、英凜のせいなんて一言も言ってなくない? あのクールな(なぎさ)先輩だって筋通んないって言ってたんだよ」
「そうだけど……」
「てか、英凜は他人を頭良いと思いすぎ」

 首を傾げると、桜井くんは「いやマジで。英凜が考えてる前提っていつも相手の頭の良さに期待しすぎ」半笑い気味に肩を竦める。

「英凜は論理とか合理ってすぐに言うけど、この世のどんだけの人間がそれを理解できんの? そんで理解できたとこでそれに従うの? 例えばほら、みんな分かってるよ、不良なんてやってたって無駄だし、俺達が指さして笑ってる笹部みたいな陰気なガリ勉のほうが将来勝ち組なんだって。で? だからって俺達みんな髪バチッと黒くしてビン底眼鏡かけて一生懸命勉強する? しないじゃん?」
「それとこれと……」
「同じだよ。黒烏の連中だって分かってんだよ、なんもしないのに侑生にあそこまでされるはずない、やられた後に同じ場所で群青と深緋がやり合ってるなんておかしいって、ってことは黒烏の2人組が深緋と組んで英凜襲ったんだって。だから英凜のレイプ写真なんてでてきてらマジで動かぬ証拠、なんならガチ警察沙汰でオシマイだって。で? その論理に、俺達バカな不良がどんだけ納得すんの?」

 久しぶりに一対一で話す桜井くんは、どこかおかしかった。まるで私の知らない桜井くんみたいだった。饒舌(じょうぜつ)に常識的に論理を踏まえて分析して、それを流れる水のように(よど)みなく口走る。