ぼくらは群青を探している

 帰り道はリーンと鈴虫の鳴く声が聞こえていて、もう私達が秋の入口に立っていることを教えてくれる。実際、夕暮れ時は少し暑かったけれど、今はすっかり風も涼しくなっていた。

「……なんで鈴虫は『鳴き声』っていうんだろう」
「全部そうじゃね。セミもホトトギスも犬も」
「……そっか、蚊とか羽音だもんね」
「音だろうが声だろうが、セミはうるせーけどな」
「あれなんであんなに鳴くんだろ。求愛なのかな」
「なんじゃね。生き物の存在アピールって大体そのイメージ」
「うるさい声で求愛されても響かないけどな……」
「虫だの鳥だのの求愛行動にそんなこと言ったって仕方なくね」

 話している途中で、話題選択をミスっていることに気付いた。どう派生してしまうか分からないんだから、そんな話はしないほうがいい。

「……そういえば、能勢さんが雲雀くんのことをすごく頭が良いって褒めてて」

 かといってこれも何の話の流れかと言われると困るやつだ。ただ、雲雀くんが「……能勢さんに言われてもな。なんか裏ありそうだし」と微妙な反応をしたことで「能勢さんの裏といえば」都合のいい連想をできた。

「体が弱い云々っていう話あったじゃん。あれ、九十三先輩も知ってたんだよね」

 体育祭以来、雲雀くんとは別の問題があってろくにこの話ができていなかったので丁度いい。

「というか……全体的に私の考えすぎだったのかも……」
「能勢さんだけじゃなくて蛍さんも別に怪しくないんじゃね、ってことか?」
「そう……。っていうか、九十三先輩いわく、私の体が弱いなんて噂あるけどあれただの噂で勘違いだろうな、って話をみんなでしてたらしいから、それが本当に番狂わせっていうか、前提をひっくり返す最悪の事実。いや最悪じゃないんだけど、今までの推論が全部水泡に帰したっていうか」

 私の“体が弱い”なんて、知ってるのは荒神くん、陽菜または新庄の三択で、荒神くんと陽菜が他人に漏らさない以上、新庄から聞いたとしか考えられない。だからそれを知っている蛍さんと能勢さんは、少なくともどちらかが新庄と組んでいる可能性があった。

 でも九十三先輩が「みんな知ってるけどただの噂だと思ってる」なんて口にした。しかもあの口ぶり、新庄の一件がある前から知っていたとしか思えない。ということは、蛍さんと能勢さんにその情報が行き渡る方法は、新庄以外にもある。

「結局、私の“体が弱い”なんて話はなんの意味もなくて、今はあの夏祭りの日に陽菜をナンパした2人組と群青の誰かが繋がってるって情報しかない。そうなると蛍さんと能勢さんに限って疑ってかかるのは軽率というか、早計というか。しかも群青トップ2なんて、例えば服部先輩とかよりも動機がないだろうし……」

 蛍さんと冷戦状態の服部先輩が、今でもNo.1に選ばれなかったことを根に持っているのだとしたら、蛍さんのお気に入り説のある私を(おとしい)れようとしてもおかしくはない。……実際、私を可愛がってくれる先輩はみんな、見ている限り親蛍さん派に違いない。

「動機がないから容疑もない、なんていうのが尚早(しょうそう)だっていうのは分かってる。他人の内心なんて知り得ないんだから、『動機がない』ように見えるんだとしたらそれは『動機を推論するのに十分な情報を手に入れていない』だけ……動機がないから自分は白ですなんて、ミステリーで追い詰められた真犯人くらいしか言わないのはそういうことなのかもね」