それは、正直にいえばあまりよくない好奇心だった。はっきりとそうだとは言えないけれど、ともすれば雲雀くんに好かれていることの優位性を確認したいとか、自己承認欲求を満たしたいがゆえの発言だと捉えられても言い訳はできなかった。

 でも雲雀くんはそれほど気にした様子はなく「んー……」と首を捻った。

「入学式ン時、言ったろ。俺、一番で入れると思ってたから、普通にびっくりした」

 ……そんなこと? ドラマチックな何かを良そうしていたわけではなかたけれど、さすがにそれは予想外だった。ぱちくりと目を瞬かせたけど、雲雀くんは膝の上に肘をついて「マジで灰桜高校(はいこう)程度ならぶっちぎりの自信あったからな」と口を尖らせる。

「しかも普通科だし。まあなんか陰気だし、優等生っぽいっちゃぽいけど、そんなガリ勉に負けっかなあって」
「……なんか雲雀くんによる私の第一印象最悪じゃない?」
「んー、でも特別か普通かって聞かれたら普通だなつってたろ。あー、コイツ面白いなって」
「……そんなに?」
「海で話したろ、人間自分を特別って思いたいもんだって。それを高1で『自分って普通だな』って思ってんの、どんだけ達観してんだよって」

 ……それは私が一色市に引っ越しをさせられた理由と関係しているかもしれない。あたかも異常のように言われたから、特別だろうがなんだろうが、その異常性はないと信じたかった。その意味では、達観しているというのは買い被りだった。

「ぼーっとして見えるけど、喋ったら、あ、コイツ頭良いなって思ったし。喋っててコイツ頭良いなって思ったのって……多分初めてだった気がする。そういう意味では、ありがちに周りにいないタイプだったとか、そういうことがきっかけだったのかもな」
「……なるほど……」
「……でも、いつから好きだったんだろうなあ」

 自分でも判然としていないような、不思議そうな声だった。

「……昴夜が」桜井くんの名前を聞いた瞬間、私の心臓は跳ねた。でも雲雀くんは気付かないらしく「三国がピアノ上手かったって言ったときに、ピアノも弾けんのか、聴いてみたいなってのは思った。でもその時に昴夜だけ聞いてんのズルいなとまでは思わなかったし……。ああ、でも新庄に手出されたって分かったときは結構ムカついたな」
「……そういえば、そんなこともあったね」
「そんなことじゃねーだろ。……でも新庄のことは元から嫌いだしな、また俺の周りにちょっかいかけ始めやがったってイラついただけって言われたらそんなもんかもしれない。でも先輩らの勉強会が始まって、俺が三国にとって『群青メンバー』以上じゃなくなるのは、ちょっとなと思ったから、あの時にはそういう意味で気になってたのかもな」
「……じゃ、6月くらい……?」
「……多分。でも三国のこと好きなんだなって思ったのは、夏祭りだったから、結構長く気付かなかったな」

 夏祭りの何がどう作用して? なんて聞くまでもなかった。私の浴衣姿がどうだとか、笹部くんが出てきたことだとか、そんなことが月並みに雲雀くんの琴線(きんせん)に触れるはずがない。

 さすがの私も察していると分かるのだろう。お互い無言になってしまった。

 手持(てもち)無沙汰(ぶさた)だったのか、気まずさゆえの時間稼ぎなのか、雲雀くんはゴミ箱に向けて紙パックを放った。綺麗な弧を描いてポスッと落下した。それに続こうと私も紙パックを投げたけれど、コンッと枠に弾かれて床に転がってしまった。仕方なく立ち上がって、ゴミ箱まで近づいて屈みこみ、それを拾い上げる。