ぼくらは群青を探している

 チッ……と舌打ちでもしそうな顔つきで、蛍さんの元カノさんは苛立ち任せに視線を投げてくる。でも本当に愛人なんてしてないので勘弁してほしい。

「……蛍さんに、問いただしてみたらいいんじゃないですか。そうすれば私が愛人じゃないって分かると思うんで」
「愛人はみんなそう言うんだけど」

 ……それはそうかもしれない。ちょっと納得してしまった。ただ、蛍さんの元カノさんは「みんな」と一括りにできるほど愛人に会っているのだろうか。そうだとしたらかなり恋愛運がないか妄想癖が激しい。

「……ちなみになんで私が蛍さんの愛人だと思うんですか?」
「は? アンタみんなが言ってるの聞いてないわけ?」

 ……ついさっき先輩達の前で鬱憤(うっぷん)を晴らしていてよかった。さすがの私も、蛍さんの元カノさんに皮肉をぶちまける勇気はなかった。

「……みんなが私のことを蛍さんの愛人って呼んでるという話は何度か聞いたことがあるんですけど、蛍さんの愛人をやった覚えはないので……いつから愛人やってるのと言われると、やってないとしか答えようがないです」

 はぁー、とまるで言い聞かせるためかのような大きな溜息を吐かれた。心底呆れているか心底怒っているか、そのどちらかだった。

「……永人と別れたあたしがどうこう言うことじゃないんだけどさあ、永人の愛人やっといて、気に入った同級生がいたら乗り換えようかなっていうその根性が気に食わない」

 そんな根性は私にはない……。私の感覚でいえば、そんな所業をできる子は稀代(きだい)の悪女だ。

「……両方ともした覚えがないので、ちょっと、何を言われているのか」
「だからさあ、その根性が気に食わないって言ってるんじゃん。別に愛人だから殴ってやるとか言ってるわけじゃないじゃん、正直に言えば許さなくもないのに、なんでそうやって嘘吐くわけ?」

 どうしよう……話が全然通じてない……! 会話の内容は「あなたは蛍さんの愛人ですか?」「いいえ、違います」というだけの、中学1年生でも英語に訳せるくらい至極単純明快なものだ。それなのになぜか全く通じない、その状態に頭が混乱してついていかない。

「えっと……その、なんで私の言うことが嘘だと言うのかが分からないんですけど……」
「じゃ、本当に愛人やったことないわけ?」
「ないです、本当にないです。だって愛人って、第2の恋人とかそういうのですよね、浮気相手みたいな。私、そもそも蛍さんの存在を知ったのが高校に入ってからなので……」
「フーン」

 ぶんぶんと首と手を横に振る私に、蛍さんの元カノさんは苛立った顔つきのまま首を若干傾ける。蛇がその鎌首(かまくび)をもたげて威嚇しているかのようだ。

「高校に入るまで永人と全然関係なかったわけ?」
「関係どころか顔すら知らなかったです……」
「フーン。それ嘘だよね? こっちには証拠あるんだけど」

 証拠? 私は蛍さんの愛人をしたことがないのに、私が蛍さんの愛人だった証拠? ますます混乱する私の目の前に、蛍さんの元カノさんはずいっと印籠のように携帯電話の画面を見せつけてきた。

「これ見て、まだ言い訳する?」

 ……そこには、私がうつっている写真が表示されていた。

 正確には、私がうつっている写真を表示する携帯電話画面の写真だ。うつっている携帯電話は、私の記憶が正しければ蛍さんのものと同じ機種だ。つまり、蛍さんの携帯電話に私の写真が入っていることが分かる。