「まあ俺らがいじったのは悪かったけど、噂は気にすんな。何言われてるのか知らねーけど」
「……笹部くんより雲雀くんが下だとか、私は普通科じゃないと1番になれないから普通科選んだんだプライドのクソ高い女だとか」
「笹部より雲雀のほうがいい男だよ、それは先輩が保証するって」
「全体的にただの僻みだな。お前、普通科も一緒の模試でぶっちぎってんだろ? 今年の特別科はザコって話まであんだ、どうせどっかのガリ勉女子が悔しさついでに流した噂だ、気にすんなよ」
「あとは私は蛍さんの愛人だったはずなのに雲雀くんと付き合うなんてどうなってるんだとか……」
「それはお前が正妻を断るから」
「真面目に話してるんですけど」
「……今度聞いたら否定しとく」
蛍さんと九十三先輩は、頻りに「いじりすぎて悪かったな」「もう野次に雲雀の名前出さないからさ!」野次を飛ばさないことは確約せずに、3年生の競技へと去っていった。でも反省はしてくれたらしいし、ご丁寧にアイスの棒まで回収してくれた。
でも正直、先輩の野次はデリカシーがなかっただけといえばそうだし、あれやこれやうるさかったのは特別科の人だけだったし、なんだかアイスまでおごってもらって悪いことをした……。つい1ヶ月前に雲雀くんの前で大人ぶったことを言ったくせに、結局私だってこの有様だ。反省しなければ。ただ、先輩達の前でブツブツと呪いを吐いたお陰でちょっとだけ気分はスッキリした。
ただ、その先輩達がいないタイミングに最大の難点が待ち構えていた。
昼休休憩後、午後一番の競技は色別演技だった。中でも青組が一番で、早々に演技を終えて生徒用の観覧席に戻って赤組を見る準備をしようとしていたとき「三国さんだよね?」なんて呼び止められた。ちょっとキツめの顔立ちをした綺麗な人で、青組のハチマキをしているけれど、知らない女子だった。明るい髪は細くて長く、後頭部でポニーテールになっていて、顔立ちも合わせてみるといかにも気の強そうなのが伝わってくる。しかも取り巻きみたいに友達も連れてない、完全に私と1対1だ。
「……そうですけど、どちら様ですか」
「3年、曽根眞理子」
フルネームを言われても知らないことには変わりない。ただこれだけ噂が蔓延している状況、そして3年生の女子が1対1でわざわざ話しかけてくる理由を考えれば、思い当たる属性は一つ。
「……蛍さんの元カノですか?」
「そういう話聞いてんだ?」
「あ、いえ。聞いてないです。ごめんなさい」
正確には蛍さんに元カノがいて、パティスリープリティに行かなかったことのほか種々の不満の積み重ねにより別れるに至った、それにもかかわらず私が入学したことで愛人の存在が別れの原因になったと言われている、ということくらいしか知らない。この状況に鑑みて蛍さんの元カノだと考えただけで、フルネームなんて聞いたことがない。
でも「へーえ、そう?」と低い怖い声を出されたので多分信じてもらえてない。腕を組み片足に体重をかけて立つ、その状態は臨戦態勢とでも呼ぶべきだ。
「三国さん、いつから永人の愛人やってるの? 中学何年?」
「いえ愛人をやった覚えはないです」
「いやいつからって聞いてんだけど」
「いえ愛人をした覚えがないと言っているんですけど」
ああ、マズい、日本語の不自由な人だ。この場をどう切り抜けるか、背筋を冷や汗が流れ始めた。蛍さんも、どうせ付き合うなら数学のできる人か言葉の通じる人にしてくれればいいのに。
「……笹部くんより雲雀くんが下だとか、私は普通科じゃないと1番になれないから普通科選んだんだプライドのクソ高い女だとか」
「笹部より雲雀のほうがいい男だよ、それは先輩が保証するって」
「全体的にただの僻みだな。お前、普通科も一緒の模試でぶっちぎってんだろ? 今年の特別科はザコって話まであんだ、どうせどっかのガリ勉女子が悔しさついでに流した噂だ、気にすんなよ」
「あとは私は蛍さんの愛人だったはずなのに雲雀くんと付き合うなんてどうなってるんだとか……」
「それはお前が正妻を断るから」
「真面目に話してるんですけど」
「……今度聞いたら否定しとく」
蛍さんと九十三先輩は、頻りに「いじりすぎて悪かったな」「もう野次に雲雀の名前出さないからさ!」野次を飛ばさないことは確約せずに、3年生の競技へと去っていった。でも反省はしてくれたらしいし、ご丁寧にアイスの棒まで回収してくれた。
でも正直、先輩の野次はデリカシーがなかっただけといえばそうだし、あれやこれやうるさかったのは特別科の人だけだったし、なんだかアイスまでおごってもらって悪いことをした……。つい1ヶ月前に雲雀くんの前で大人ぶったことを言ったくせに、結局私だってこの有様だ。反省しなければ。ただ、先輩達の前でブツブツと呪いを吐いたお陰でちょっとだけ気分はスッキリした。
ただ、その先輩達がいないタイミングに最大の難点が待ち構えていた。
昼休休憩後、午後一番の競技は色別演技だった。中でも青組が一番で、早々に演技を終えて生徒用の観覧席に戻って赤組を見る準備をしようとしていたとき「三国さんだよね?」なんて呼び止められた。ちょっとキツめの顔立ちをした綺麗な人で、青組のハチマキをしているけれど、知らない女子だった。明るい髪は細くて長く、後頭部でポニーテールになっていて、顔立ちも合わせてみるといかにも気の強そうなのが伝わってくる。しかも取り巻きみたいに友達も連れてない、完全に私と1対1だ。
「……そうですけど、どちら様ですか」
「3年、曽根眞理子」
フルネームを言われても知らないことには変わりない。ただこれだけ噂が蔓延している状況、そして3年生の女子が1対1でわざわざ話しかけてくる理由を考えれば、思い当たる属性は一つ。
「……蛍さんの元カノですか?」
「そういう話聞いてんだ?」
「あ、いえ。聞いてないです。ごめんなさい」
正確には蛍さんに元カノがいて、パティスリープリティに行かなかったことのほか種々の不満の積み重ねにより別れるに至った、それにもかかわらず私が入学したことで愛人の存在が別れの原因になったと言われている、ということくらいしか知らない。この状況に鑑みて蛍さんの元カノだと考えただけで、フルネームなんて聞いたことがない。
でも「へーえ、そう?」と低い怖い声を出されたので多分信じてもらえてない。腕を組み片足に体重をかけて立つ、その状態は臨戦態勢とでも呼ぶべきだ。
「三国さん、いつから永人の愛人やってるの? 中学何年?」
「いえ愛人をやった覚えはないです」
「いやいつからって聞いてんだけど」
「いえ愛人をした覚えがないと言っているんですけど」
ああ、マズい、日本語の不自由な人だ。この場をどう切り抜けるか、背筋を冷や汗が流れ始めた。蛍さんも、どうせ付き合うなら数学のできる人か言葉の通じる人にしてくれればいいのに。



