「俺らが迷惑つか、普通に見てて気持ち悪くね、コイツ。2年前にフラれた相手のことをブツブツ言いやがって。つか俺、声小さいヤツ嫌いなんだよ」
「つまり雲雀くんの好みの問題じゃん!?」
「だから俺が言ってるんじゃないんだって!」笹部くんは必死に弁解するように珍しく大きな声を出して「三国が雲雀と付き合ってんじゃないかっていうのは、夏休みからみんな言ってたんだよ! 写真あるから!」
……私と雲雀くん? しかも写真? 全く身に覚えがなくて、多分私と雲雀くんは揃って怪訝な顔をした。仮にあるとしても桜井くんと3人のセットだろうし……。群青の先輩達もいる中で海に行ったときのことならまだ切り取り用があるけれど、そうだとしたらありがちに過ぎる悪意のある切り取りだ。
「なんだその写真。出せよ」
「え、いや、俺は持ってないし……、クラスのヤツに見せられただけで……」
「は?」
「ご、ごめんなさい、私が持ってます!」
このままでは笹部くんが雲雀くんに殺されるとでも思ったのか、笹部くんとセットの女の子が慌てたようにパチッと携帯電話を開く音がした。雲雀くんは眉間に深く皺を寄せたまま、とりあえず笹部くんの胸座を離し、その子の手元を覗き込んだ。一見怖くてもやっぱり顔が整っているからなのか、それともただ男子だからなのか、その子の頬にはサッと朱が差す。手がまごつきながら「えっと……えっと、確か、夏祭りの後に来たメールで……」と携帯電話を操作する。
「こ、これです……」
画面を見せられた雲雀くんの目から温度が消えた。そのまま携帯電話をもぎ取るので、私も慌てて首を伸ばした――けれど、雲雀くんの腕に邪魔された。
「え、え、なんで、私の写真でしょ?」
「俺が見たからいい」
「こういうのは自分で見ないと」
「この差出人の山下って誰?」
雲雀くんは私を無視して女の子に尋ね「え、普通にクラスの……1組の人、です……」と女の子が怯えきって震えた声で答え「コイツ仲良いの」「え、まあ……いい、ですけど……」「で、アンタこれ誰かに送ったの」「お、送ってないです……」「本当か?」そのまま尋問を始める。
「ねえ雲雀くん、それ何の写真なの」
「だから三国はいいって……」
半ば煩わしそうに腕で私を押しのけようとする雲雀くんの腕を掴み、やっと覗き込んだ。携帯の液晶画面には受信メールが表示されていて、件名「Re:無題」本文「これ! 顔微妙だけど、浴衣が同じで、しかもなんか珍しいやつだって。名推理」とあまり論理的でない文章が書かれている。
その下に表示されている添付写真は「ほとんど真っ黒でよく分からない」というのが一見した印象だ。その代わり、その真っ暗な長方形の真ん中に注目すれば、それが建物の前で抱き合っている2人組だというはすぐ分かる――特に当事者には。
「これ」
夏祭りの日、社の前にいる私と雲雀くんの写真だ。しかも、まるで狙いすましたかのように、私が雲雀くんに抱き着き、雲雀くんに抱きしめ返されているときの様子だ。画像自体は荒いし、暗がりでの撮影で色は判然としないけれど、それこそ――メール本文のとおり――私の浴衣を知っていれば、この少し古典的な柄は私だと分からなくはない。それが難しいとしても、雲雀くんの顔とシルエットは判別できなくはない。どちらかというと、これが雲雀くんだという事実から相手を私に絞り、その日の私に関する情報とをすり合わせ、矛盾がないから私と判断すると、といった理屈な気がした。
「だから見なくていいつったろ」
「つまり雲雀くんの好みの問題じゃん!?」
「だから俺が言ってるんじゃないんだって!」笹部くんは必死に弁解するように珍しく大きな声を出して「三国が雲雀と付き合ってんじゃないかっていうのは、夏休みからみんな言ってたんだよ! 写真あるから!」
……私と雲雀くん? しかも写真? 全く身に覚えがなくて、多分私と雲雀くんは揃って怪訝な顔をした。仮にあるとしても桜井くんと3人のセットだろうし……。群青の先輩達もいる中で海に行ったときのことならまだ切り取り用があるけれど、そうだとしたらありがちに過ぎる悪意のある切り取りだ。
「なんだその写真。出せよ」
「え、いや、俺は持ってないし……、クラスのヤツに見せられただけで……」
「は?」
「ご、ごめんなさい、私が持ってます!」
このままでは笹部くんが雲雀くんに殺されるとでも思ったのか、笹部くんとセットの女の子が慌てたようにパチッと携帯電話を開く音がした。雲雀くんは眉間に深く皺を寄せたまま、とりあえず笹部くんの胸座を離し、その子の手元を覗き込んだ。一見怖くてもやっぱり顔が整っているからなのか、それともただ男子だからなのか、その子の頬にはサッと朱が差す。手がまごつきながら「えっと……えっと、確か、夏祭りの後に来たメールで……」と携帯電話を操作する。
「こ、これです……」
画面を見せられた雲雀くんの目から温度が消えた。そのまま携帯電話をもぎ取るので、私も慌てて首を伸ばした――けれど、雲雀くんの腕に邪魔された。
「え、え、なんで、私の写真でしょ?」
「俺が見たからいい」
「こういうのは自分で見ないと」
「この差出人の山下って誰?」
雲雀くんは私を無視して女の子に尋ね「え、普通にクラスの……1組の人、です……」と女の子が怯えきって震えた声で答え「コイツ仲良いの」「え、まあ……いい、ですけど……」「で、アンタこれ誰かに送ったの」「お、送ってないです……」「本当か?」そのまま尋問を始める。
「ねえ雲雀くん、それ何の写真なの」
「だから三国はいいって……」
半ば煩わしそうに腕で私を押しのけようとする雲雀くんの腕を掴み、やっと覗き込んだ。携帯の液晶画面には受信メールが表示されていて、件名「Re:無題」本文「これ! 顔微妙だけど、浴衣が同じで、しかもなんか珍しいやつだって。名推理」とあまり論理的でない文章が書かれている。
その下に表示されている添付写真は「ほとんど真っ黒でよく分からない」というのが一見した印象だ。その代わり、その真っ暗な長方形の真ん中に注目すれば、それが建物の前で抱き合っている2人組だというはすぐ分かる――特に当事者には。
「これ」
夏祭りの日、社の前にいる私と雲雀くんの写真だ。しかも、まるで狙いすましたかのように、私が雲雀くんに抱き着き、雲雀くんに抱きしめ返されているときの様子だ。画像自体は荒いし、暗がりでの撮影で色は判然としないけれど、それこそ――メール本文のとおり――私の浴衣を知っていれば、この少し古典的な柄は私だと分からなくはない。それが難しいとしても、雲雀くんの顔とシルエットは判別できなくはない。どちらかというと、これが雲雀くんだという事実から相手を私に絞り、その日の私に関する情報とをすり合わせ、矛盾がないから私と判断すると、といった理屈な気がした。
「だから見なくていいつったろ」



