ぼくらは群青を探している

庄内(しょうない)とかはビミョー、永人のやり方が気に食わないとこもあるけど、まあ結果を見てたらいまの群青って最強だからよくね、って感じだと思う。ほら、それこそお前らと入学式の日にドンパチやったわけじゃん。あれとか完全に庄内達が勝手にやったこと。そのせいで永人に怒られてたしなー」

 ただ九十三先輩はどう方向性が違うのか説明してくれなさそうだった。

「あと、芳喜はまあ特殊だなあ。アイツをNo.2にするってびっくりしたし」
「……なにがどう特殊なんですか?」
「え、だって特別科じゃん。その時点でオカシイ。……まあ他にも理由はあるけど、No.2にしたのって結局永人が芳喜を見張る口実が欲しかったんじゃねーの、って感じがするんだよな」

 見張る口実……? ますます能勢さんへの疑念を募らせる私達に「だから芳喜が怪しいつーんなら、それはまあ、そうかもねって感じかな。それでもアイツが三国ちゃん襲うとは思わないけどなあ」とやはり首を捻る。

「能勢さん、なんか怪しいことでもあるんですか」
「永人と服部のトップ争いって、要は派閥争いだったんだよなあ」

 九十三先輩は手すりの上に2つ小石を並べた。その小さいほうをトントンを叩いて「永人の派閥と、服部の派閥があってさあ。俺とか常磐(ときわ)は永人派だったんだよね」と小さいほうに小石を増やす。

「で、芳喜は服部側だったんだけど」

 ……つまり蛍さんは服部先輩の派閥にいる後輩を自分の補佐に指名したということになる。なぜ服部先輩でなく、あえて能勢さんを指名したのか。

「でも服部って、マジ脳筋なんだよね。あの芳喜がその服部につくと思う?」
「お、思えません……」
「だろ。でもって、もともと芳喜と永人は仲悪くもなかった。だから永人派(こっち)にも頭脳タイプ欲しいなあってのもありつつ、てか何より脳筋の服部にガチ頭脳つけるべきじゃねー、ついてるとして幹部にすりゃ身動きも制限できんだろってんで、とりあえず試しにNo.2に指名してみたわけ」
「暗に蛍さん側に寝返れって言ったわけですか」
「……その結果は?」
「さーあ? 保留中だよ、保留中。今のところ永人に従順だし、服部派つっても、別に服部に()び売ってたってわけでもねーし。なーんかね、アイツはよく分かんないんだな」

 ……先輩達から見ても、能勢さんはよく分からないのか。うーん、と考え込む私に「でもアイツが三国ちゃん襲うなんてことはないんじゃない? アイツ女癖悪いけどゲスじゃないし」と九十三先輩も首を傾げる。

「何疑ってるのか知らねーけどさ、さすがに三国ちゃんが襲われてんのは結構なメンツを白にすんじゃないかなあ。服部とか知らねーよ、アイツ脳筋だしモテないし、目の前に女ほいって差し出したら全然食うと思う。でも芳喜がなあ、そういうことするイメージは湧かねえなあ。アイツ、なんだかんだイイヤツだからね」

 ……私だってそう信じたいけど、だったらどうして能勢さんも蛍さんもあんなことを知っているのだろう。中学の同級生で、誰かその話を覚えていて、なおかつ口の軽い人がいるのだろうか――……。

 九十三先輩は「おい九十三ィ、先生来たぞ」「やべ。じゃーねー」先生の見回りを警戒して掃除に戻っていった。

「……なんだかんだイイヤツ、ね」
「ま、いい人だとは思うけどな、能勢さん。能勢さんのこと嫌いな人が口揃えるのって『モテる』『頭がいい』『金持ち』のどれかだし」
「ただの嫉妬の範疇(はんちゅう)ってことだよね。だったら一体……」