下手に普通科の生徒をそんなところに割り当てると、学校が手に入れた表彰の数々が破壊されて終わるだけだろう。胡桃が応接室を割り当てられたことは偶然だろうけど、特別科と普通科の差が如実に分かる分け方だ。
「てか胡桃、午後の小論模試の勉強しないの?」
「あたしは昴夜と違ってちゃんと前から勉強してるの。でももう始業式だから帰るね」
ばいばーい、と胡桃は手を振っていなくなり、雲雀くんが「やっといなくなった……」とげんなりと呟く。私に暴露して以来、雲雀くんの胡桃への嫌悪感は徐々に露骨になってきた。
「てか意外と写真撮ってないんだな、胡桃。こんだけ?」
「そう? 多いと思ったけど。あ、でも厳選したとは言ってたかな……」
神経衰弱でもするように、写真を机の上で動かす。私と胡桃のツーショット、私と九十三先輩のツーショット、私と常磐先輩と九十三先輩、雲雀くんと私のツーショット、雲雀くんと私と駿くんと……。桜井くんがいないな、と思って探せば、桜井くんと雲雀くんがお昼を食べている写真と同じく2人がバレーをしている写真だけあった。
「……桜井くんがうつってる写真、全然ないね」
「あー、それ多分夏休みの間に俺が貰ったからだ。お盆前に届けに来てた」
「へえ」
雲雀くんがどこか剣呑そうな声をだせば「でも俺要らないから、父さんに全部あげた。喜んでた」とどうやら最早桜井くんの手元には残っていないらしいことが分かった。せっかくの桜井くんの写真なのに……。
「てかねー、先輩らがめっちゃ写真くれた。英凜もらった?」
「あ、うん。何枚かメールで……」
「あれ、桜井、ケータイ買ったの」
桜井くんが何気なく取り出したオレンジ色のそれに、陽菜が目を丸くした。桜井くんは「そう!」と得意気に口角を吊り上げ、そのまま印籠のように見せつける。
「ついに! なんと! 買ってもらいました!」
「マジかよ、メアド教えろよ」
「いいよー」
そう、桜井くんはお盆過ぎに私の家に電話をかけてきて「ケータイ買った! 英凜のメアド教えて!」と言ってきた。お陰で口頭でメールアドレスを伝える羽目になった。ただ、桜井くんは必要に駆られて欲していただけらしく、意外と不必要にメールを送ってくることはなかった。今まで雲雀くんの携帯電話から「今日あそぼー」と連絡をくれていたのが桜井くんのメールになっただけ。そういうところはやっぱり男の子だ、偏見かもしれないけれど。
「てか父さんに言ったら『もっと早く持たせようと思ってたのにお前が要らないって言うから』って言われた」
「だろうな」
普通に考えて、父親が単身赴任で息子は1人で年老いた祖父と一緒に住んでいるだけ、なんて状況だったら息子に携帯電話を持たせない理由がない。きっと当時の桜井くんが頑強に突っぱねたに違いない。
「え、桜井、メアドに『blue_flock』って入ってんの? 群青大好きかよ」
「なんか設定の仕方わかんなくて永人さんに頼んだら勝手にこれにされた」
「情弱が世の食い物にされる瞬間を見た気がしてる」
「ごめん英凜なんて?」
「まあ英凜のメアドより百倍マシだけどな」
「ああ、『e.mkn』っていう温度ないメアドな」
「雲雀くんだってただの『feldlerche』じゃん!」
「てか胡桃、午後の小論模試の勉強しないの?」
「あたしは昴夜と違ってちゃんと前から勉強してるの。でももう始業式だから帰るね」
ばいばーい、と胡桃は手を振っていなくなり、雲雀くんが「やっといなくなった……」とげんなりと呟く。私に暴露して以来、雲雀くんの胡桃への嫌悪感は徐々に露骨になってきた。
「てか意外と写真撮ってないんだな、胡桃。こんだけ?」
「そう? 多いと思ったけど。あ、でも厳選したとは言ってたかな……」
神経衰弱でもするように、写真を机の上で動かす。私と胡桃のツーショット、私と九十三先輩のツーショット、私と常磐先輩と九十三先輩、雲雀くんと私のツーショット、雲雀くんと私と駿くんと……。桜井くんがいないな、と思って探せば、桜井くんと雲雀くんがお昼を食べている写真と同じく2人がバレーをしている写真だけあった。
「……桜井くんがうつってる写真、全然ないね」
「あー、それ多分夏休みの間に俺が貰ったからだ。お盆前に届けに来てた」
「へえ」
雲雀くんがどこか剣呑そうな声をだせば「でも俺要らないから、父さんに全部あげた。喜んでた」とどうやら最早桜井くんの手元には残っていないらしいことが分かった。せっかくの桜井くんの写真なのに……。
「てかねー、先輩らがめっちゃ写真くれた。英凜もらった?」
「あ、うん。何枚かメールで……」
「あれ、桜井、ケータイ買ったの」
桜井くんが何気なく取り出したオレンジ色のそれに、陽菜が目を丸くした。桜井くんは「そう!」と得意気に口角を吊り上げ、そのまま印籠のように見せつける。
「ついに! なんと! 買ってもらいました!」
「マジかよ、メアド教えろよ」
「いいよー」
そう、桜井くんはお盆過ぎに私の家に電話をかけてきて「ケータイ買った! 英凜のメアド教えて!」と言ってきた。お陰で口頭でメールアドレスを伝える羽目になった。ただ、桜井くんは必要に駆られて欲していただけらしく、意外と不必要にメールを送ってくることはなかった。今まで雲雀くんの携帯電話から「今日あそぼー」と連絡をくれていたのが桜井くんのメールになっただけ。そういうところはやっぱり男の子だ、偏見かもしれないけれど。
「てか父さんに言ったら『もっと早く持たせようと思ってたのにお前が要らないって言うから』って言われた」
「だろうな」
普通に考えて、父親が単身赴任で息子は1人で年老いた祖父と一緒に住んでいるだけ、なんて状況だったら息子に携帯電話を持たせない理由がない。きっと当時の桜井くんが頑強に突っぱねたに違いない。
「え、桜井、メアドに『blue_flock』って入ってんの? 群青大好きかよ」
「なんか設定の仕方わかんなくて永人さんに頼んだら勝手にこれにされた」
「情弱が世の食い物にされる瞬間を見た気がしてる」
「ごめん英凜なんて?」
「まあ英凜のメアドより百倍マシだけどな」
「ああ、『e.mkn』っていう温度ないメアドな」
「雲雀くんだってただの『feldlerche』じゃん!」



