父さんとお母さんの関係がいわゆるラブラブだと知ったのは、胡桃に「お父さんとお母さんがチューしてるところなんて見たことない! 昴夜のお父さんとお母さん、ラブラブだね!」と言われたときだ。

「なんで出かけるときチューすんの?」

 父さんが転勤する前、お母さんは、毎朝父さんが出掛ける前に「いってらっしゃい」と言ってキスをしていた。お母さんに理由を聞くと「お母さんはコーイチを愛してるからね」と返ってきた。「俺は?」とお母さんに言ったら「コーヤも愛してるよ」と返してくれたけどほっぺにしかキスをくれなかったし「いつかコーヤも愛する人ができたら分かるよ」と笑われた。

 お母さんと父さんがなんで結婚したか、みたいな話はお母さんから聞いた。お母さんは、父さんと同じ大学の留学生だった。お母さんが図書館で本を借りようとしたとき、父さんとバッティングしたらしい。お母さんは本を譲ろうとして、でも父さんが譲ってくれて、代わりに返すときに連絡をくれ、どうしても借りたい本だから、と話したのだと。その話を聞いた時は「へー、まあそうだよね、借り物だから返すときが分かればそれでいいよね」くらいしか思わなかったけど、後になって思えば、なんてことはない、父さんはお母さんと連絡を取る口実が欲しかっただけだ。つか図書館で本借りようとして出会って付き合ってそのまま結婚とか、今時ドラマにもないベタなラブストーリーどこに転がってんの? って今でも思う。絶対、父さんはお母さんとバッティングするタイミングを狙ってたに違いない。

 最初、お母さんは父さんに全然興味がなかったらしい。なんなら父さんと図書館で会ったときは彼氏がいたらしい。お母さんが彼氏にフラれたのはその1年後くらいで、父さんがそれを優しく慰めてくれたことがきっかけだった。これも後になって色々知恵がついた頃に考えれば、傷心に付け込んだだけだろうし、なんならそのタイミングを|虎視眈々(こしたんたん)と狙ってたわけで(そういうのをドラマで見た)、いわゆるストーカーより(たち)が悪いんじゃないか。そう言ったら、お母さんは「そうかもしれない」「でもコーイチがいなかったら、お母さんはずっと泣いてたよ」と笑っていた。