ぼくらは群青を探している

「介護ってなんだよ」

 冷蔵庫を開けると、整然と揃ったタッパーが目についた。その側面には付箋(ふせん)も貼ってあって「人参しりしり 5日」「煮込みハンバーグ 3日」など、おそらく内容と日持ちが書かれている。これが家政婦さんの作り置きだろう。
 夜になると、これを温めて一人で食べるんだ……。下手にダイニングとリビングの図を知ってしまったせいで、四人掛けのダイニングテーブルの写真に、ぽつりと一人で座って食事をしている雲雀くんの姿を合成できてしまった。
 その合成写真が頭に浮かんだ途端、この冷蔵庫の中身は見てはいけないものだったような気がして、パタリと扉を閉じた。リビングに戻ると、桜井くんはクッションを抱えて座り込んでいて「てか海行くのに怪我染みない?」「……海水で治んねえかな」と早速今週末の遊びの話をしている。

「つか三国、お前、海行くのか?」
「え? 行くよ、だから水着買ったし……」

 急にどうしたの、と首を傾げながら桜井くんの隣に座り込むと、雲雀くんは腕を組んで少し視線を斜めに逸らした。言葉を選んでいる顔だ、これは。

「……そうじゃなくて水着」
「……怪我もしてないけど」

 何の話? 首を傾げ続ける私の隣で、桜井くんは何かを察したように「あー……」と小さくぼやく。でも私が顔を向けても何も教えてくれない。

「……その程度ならいいけど」
「え、なにが」
「つか、どうせうち来てんなら能勢さんの話してくれ」

 水着の話題は強制終了させられた。
 ただ、その話もしておくべきなのは間違いない。桜井くんが「え、急になに」と私と雲雀くんを交互に見る。

「……えっと、何から話せばいいのか……」
「能勢さんとなんかあったの?」
「なにかあったっていうか……」

 桜井くんには全く伝えていない話なので、スタート地点が悩ましい。自然と眉間に寄っていた皺を指でほぐした。

「……疑いの内容としては、能勢さんが新庄と組んでるんじゃないかって話なんだけど……」
「……能勢さんが新庄と?」桜井くんは目を丸くして「有り得なくね? 群青のNo.2で、わざわざ新庄と組む必要ある?」
「昴夜、黙って聞け。それはいわゆる動機の話だろ、そういう推論頼りの話は裏付けの後だ」
「……うん?」

 桜井くんは首を捻ったけれど、雲雀くんの言うとおりだ。人の内心は推し(はか)る以外に知る方法がないのだから、事実から固める必要がある。

「……怪しいと思ったのは、新庄しか知らないはずのことを能勢さんが知ってたから。正確には、限られた人しか知らなくて、群青の先輩達は知ってるはずがなくて、それなのに能勢さんが知ってる」
「……なにを?」
「……荒神くんが、私のことを『体が弱い』って勘違いしてるんだけど。この話、雲雀くんにはしたよね」

 雲雀くんが「ああ、中学の担任が勘違いして体が弱いつったってやつな」と頷けば、桜井くんの視線が少し彷徨(さまよ)った。ただ、その理由は分からなかった。

「……勘違いって、どういうこと? てか勘違いってことは、体弱くないんだよな?」
「うん、全然。夏祭りの日、桜井くんにも話したでしょ、私のアンバランスな性質を両親が心配して田舎(こっち)に住ませてるって。結局そのアンバランスな性質のことって──これも雲雀くんには夏休みの前に話したことだけど、精神科の医者にいわせれば“病気”の要素だったし、それを聞いた両親からすればもうそれは“病気”でしかなかったんだよね」