ぼくらは群青を探している

 一体何の話……? 胡乱(うろん)な顔を陽菜へ、そして陽菜をナンパしていた(と思う)男2人組に向ける。そのうちの1人が「へーっ、そうなんだ」と頷きながら咥え煙草を揺らした。髪色は派手だったけれど、うっすらとある(ひげ)(あと)のせいか、高校生にしては少し年上に見える。

「……どちら様……」
「俺らねー、群青のOBなんだよ」

 予想外の属性に目をぱちくりとさせてしまった。群青の、OB?
「なんかねー、話しかけてきて、灰桜高校(ハイコー)って言ったら群青のOBだよって言われて、いま蛍先輩と英凜の話してたとこ」
「……なる、ほど……?」

 ついじろじろとその2人を見てしまった。高校生より少し上に見えるという直感は間違いではなかったらしい。
 その2人は口を(ゆが)めて笑いながら「俺らのときも姫いたよなー」「ユイカさんだっけ?」「ユイナじゃないっけ?」「あれ? みんなユイユイって呼んでたから、どっちだっけな」と妙に具体的な思い出話をした。でも当時の群青の姫の名前なんて知らないので判断のしようがない。
 そもそもこの人たち、群青のOBといってもどのくらい上なのだろう。高校生に見えなくもないから、離れていてもせいぜい2歳だろうか。

「え、で、いま君が姫なの? 蛍の彼女?」
「違いますが……」
「あれ、違うんだ。さすがに1年には手出さないのか」

 なぜ1年生と分かったのだろう──つい疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)になってしまったけど、陽菜が「あ、さっき1年って話したんだ」と横から耳打ちした。考えすぎ、か……。

「てか蛍ってまだ煙草嫌いなの? アイツ、父親のせいで煙草嫌いなんだよな」

 そんな中、不意に飛び込んできた初耳の情報に、またぱちくりと(まばた)きしてしまった。

「……そうなんですか?」
「なに、蛍もそういう話はしねーの?」トントン、とその人は煙草の灰を落としながら「アイツ、父親がDVで煙草やってたから煙草嫌いなんだよ」

 ……初耳過ぎる。でも、煙草を吸う人間の口に煙草を突っ込むくらいだ、筋金入りの嫌煙家であると予想はつくし、そのくらいの理由があるほうが頷ける。
 ふと、そう考えていて妙な違和感を覚えた。
 蛍さんはDVの父親が原因で筋金入りの嫌煙家。今まで聞いたことのない情報。きっと蛍さんの煙草嫌いが有名だというのなら、誰かは理由を気にしたはずで、もしかしたら蛍さんはそれを隠していないかもしれなくて、それなのに誰も私達に話していない情報……。

「てか、姫じゃないけど蛍のお気に入りってことはなに、君もワケアリ?」
「……え、」

 ワケアリ……? さっきの違和感が少しずつ形になっていく。私も、ワケアリ……。

「……まあ、私も、そうですけど……」
「あー、まあだろうねー。蛍の代から、群青ってそういうワケアリの集まりになったんだよな」

 蛍さんの代から、ワケアリの集まり。桜井くんと雲雀くんは、ワケアリ。蛍さんも、父親がDVのワケアリ。能勢さんも、もしかしたらお姉さん絡みの、ワケアリ。九十三先輩も、きっと。
 そういえば、蛍さんは言っていた──「三国英凛、お前も、男だったら群青に誘いたかった」と。
 ……そうだ、そういえば、あの時にも思ったんだ。蛍さんは、噂を聞いて私の名前を知ったのだとは、一言も言わなかったと。
 もしかして「桜井くんと雲雀くんと仲が良い三国英凜」ではなく、「三国英凜」自体を知っていたのではないかと。