ひいじいさんの代からやってる、というセリフに父親の代で途切れたかのようなニュアンスはない。ということは、おそらく代々開業医なのだろう。医者の家が金持ちだというのは安直な発想に思えたけれど、少なくとも曾祖父の代から開業医をしている家はお金持ちだ。桜井くんのいう「ボンボン」はおそらく本当だ。
「……そうだったんだ。全然結びつけなかった」
「結びつけなかったって」雲雀くんは笑いながら「ま、こんなヤンキーだとそりゃそうだな」
「ヤンキーだからっていうか、なんか、そういう人ってもっと威張ってるイメージがあった」
頭の中には、中学校の同級生が浮かんだ。それこそ、彼も家が開業医だった。その代わり、雲雀くんとは違って父親の代から始めたばかりだった気がする。彼は家が医者だという話をしょっちゅうしていたし、その証拠に全く付き合いのない私でさえ彼の家は医者だと知っているし、なんなら彼が医者を志すがゆえに県外の高校に進学したことも知っていた。
家が医者だという話をするのはなぜか。文脈や状況が分からなければ、その「なぜ」は分からないけれど、付き合のない私でさえ知っているほどに頻繁にするとすれば、その理由は「自慢」だと容易に分かる。彼は「自慢げに」家が病院だという話をしていた。医者を志しているのだと豪語していた。いつもテストの点数を大声で話していた。その点数の良し悪しはその時々で違ったけれど、少なくとも東中で上位の範囲であることは確かだった。つまり、それもまた彼の「自慢」のひとつだった……。
そんないくつもの情報を総合した結果、彼のことは「プライドが高いけれど、存外単純なので、分かりやすいお世辞でもわりと喜ぶ」と分類していた。それは「親が医者だ」と話す人にある程度使えそうな、いわゆる汎用性の高い分類だと思っていた。
「でも雲雀くんがその病院の……開業したお医者さんのひ孫って話は初めて聞いたし、桜井くんが言い出したことだし、なんか……意外だなって」
雲雀くんの情報は増えたけれど、分類するにはまだ足りない。
雲雀くんは閉口した。閉口している理由は分からなかったけれど、少なくとも不機嫌そうには見えなかった。桜井くんは丸い目を一層丸くしていた。
「……ご注文をおうかがいします」
ちょうど店員さんがきたお陰で、沈黙は断ち切られた。雲雀くんが閉口していたからか、桜井くんが「あー、えっと」と代わりに注文を請け負った。
「……三国、つーわけで、ケー番」
「あ、うん、番号言ってくれたらかけるよ」
何かが気に障ったのか、はたまた変なことを言ってしまったのか。分からないまま、雲雀くんの電話番号を携帯電話に打ち込んだ。雲雀くんの携帯電話がチカチカと光ったことを確認して、お互いに番号を登録する。
「……三国の名前って、漢字どうだっけ」
「英語の英に、凛としてるの凛」
「サンキュ」
雲雀くんの名前は、侑生だ。入学式の日に見た座席表を頭の中に浮かべながら携帯電話の中に打ち込む。桜井くんは隣でテーブルに頬をつけながら「いいなー、いいなー」とぼやく。
「あ! じゃあ俺は家の電話番号にする! 教えるから入れて!」
「……いいけど、桜井くんは登録できないんじゃ」
「いつか登録するから!」
「……つか三国、俺の名前分かんの?」
連絡先に登録するのに迷っている素振りがなかったから、だろう。さすがにその胡乱げな表情くらいは読み取れた。
「うん。侑生でしょ、人偏に有ると生きるの」
「……なんで覚えてんだ」
「だって、座席表見たから。隣にいるって思ったから、覚えたんだよね」
慌てて付け加えたけれど、雲雀くんは「ふーん……」と頬杖をついたまま少し不審げな返事をした。桜井くんは「すげー、記憶力いいなー」と拍手をしている。
「つかドリンクバー取りに行こ」
「俺、座っとくから、取ってきて。コーラ」
「んじゃ三国行こ」
「あ、うん……」
ドリンクバーを取りに行きながらも、桜井くんは「じゃー三国、俺の名前も覚えてんの」「昴に夜でしょ」「すげー、マジだ」と感動していた。やっぱ頭イイヤツって記憶力もすげーんだな、なんてこれまた安直な感想を口走る。
「つか、侑生の家が雲雀病院って話、内緒な」
桜井くんは、おもむろにそんなことを言った。それにしては随分と軽々しく私にバラしたような気がするけど。



