二人は結局、東中の近くのファミレスを選んでくれた。二人を見た店員さんは一瞬表情を変えたけれど、何も言わなかった。
テーブル席に案内され、雲雀くんが手前の座席に座ったので、なんとなく反対側のに座った。桜井くんはごく自然に私の隣に座った。
「なんでお前そっちに座ってんだ」
「だって俺とお前が三国の反対側に座ったら、なんか面接っぽくなんね?」
「なんねーよ」
「あ、そうだ、私おばあちゃんに電話する」
「そういやそんな話あったな」
リダイヤルボタンを押せば、今度はすぐに繋がった。「《英凜ちゃん?》」という声に変わりはない。
「うん。あのね、おばあちゃん、今日、晩ご飯要らなくなっちゃったんだけど、大丈夫?」
視界の隅で二人がメニューを開き「腹減った」「もう食うのかよ」「まだ食わねーけど腹は減った」と喋っている。それが聞こえたのか、電話の向こうのおばあちゃんは「《あらそう?》」と少し明るい声を出した。
「《お友達と晩ご飯?》」
喉がきゅうっと締め付けられた。それを口にしていいのか分からなかった。
でも多分、桜井くんと雲雀くんは笑い飛ばしてくれる。
「……うん、友達と食べて帰る」
「《そう。陽菜ちゃん?》」
「ううん、陽菜とは別の友達」
「《そう。お友達が増えてよかったね。あんまり遅くなっちゃいけんよ》」
「……うん、分かってる。帰るときに電話する」
通話終了ボタンを押し、パチンと携帯電話を閉じた。ほんの少し、心臓の鼓動は早かった。
「……ごめん、お待たせ」
「なあ三国」
雲雀くんの声に、ドキリと心臓が揺れた。友達じゃないと言われたら――大丈夫だ、保護者相手にはそういうことにしておかないと心配されるからそういうことにしたと言い訳は立つ。
「お前、ケータイ持ってんなら、ケー番教えとけよ」
ぷらぷらと、雲雀くんは水色の携帯電話を振っていた。
ドキドキと、心臓が高鳴っていた。予想外の反応に、頬が緩むのを押さえられなかった。きっと変なヤツだと思われているだろう。それでも、嬉しさは抑えられない。
「えー、いいなー。俺もケータイ欲しい」
「早くバイトして金貯めろ」
「そうだ、俺ドーナツ屋のバイト決まった! 父さんの知り合いがやってるチェーン! ちょい遠いけど朝の人が足りねーって」
「よかったじゃねーの。……どうした三国」
パチン、と雲雀くんは携帯電話を開いて、電話番号を確認する準備をしていた。
「……いや、なんでも」慌てて携帯電話を開き、連絡先の登録画面を開いた。
「三国、教えたくなかったら教えなくていいんだぞ。こんなシスコンに」
「シスコンじゃねーし関係ねーだろ!」
学校だったら机を蹴り飛ばしている、そんな態度だった。
「赤外線通信、ついてんの?」
「ついてない、中学のときに買ったから古くて」
「中学のときから持ってんの?」桜井くんは少し驚いた顔で「金持ちィ。あ、コイツもボンボンなんだよ」
「……そうなの?」
びっくりして雲雀くんを見つめたけれど、雲雀くんはすぐには頷かなかった。代わりにメニューを手に取り「とりあえずドリンクバーとフライドポテトくらい頼むか」と呟き、ボタンを押す。ソーミー、と店内で音が響いた。
「……雲雀病院ってあるだろ。ひいじいさんの代からやってる」
雲雀病院――おばあちゃんが通っている病院だ。脳裏には、巨大な白い病棟が浮かんだ。通りに面したところには「雲雀病院」と大きな看板が立っていて、いつもいくつもの車がひっきりなしに出入りしている。有体にいえば大病院だ。その正面玄関の光景は、まるで写真のように頭の中にある。



