そんな二人は、昼休みになると揃って「飯買いに行こうぜー」といなくなった。二人が揃っていなくなるのは昼休みが初めてだったので、そこでやっと陽菜が「ちょ、ちょちょちょ英凜!」と私のところへやって来た。大きな目は更に大きく見開かれている。
「お前大丈夫かよ! 桜井と雲雀、両方にめっちゃ気に入られてんじゃん!」
「……めっちゃかは分からないけど、なんか気に入られたね」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ。本当にぼーっとしてんだから」
弟がいて世話焼きの陽菜は、悠長な返事にやきもきしている。
「大体、昨日のあれ! 見ただろ? やばいだろ! いや雲雀はかっこよかったけどね?」
「……私、陽菜のそういうところ好きだよ」
でもメンクイ。陽菜はとにかくメンクイ。あまりにも素直な感想と破顔に、微笑ましい気持ちになってしまった。陽菜は「つか昼食べよ、雲雀いないならここでいいや」とお弁当を取りに行って戻ってきた。
「昨日、雲雀が三年の顔面をバーンッて殴ったじゃん? あれの前さ、女顔をからかわれてたじゃん? 女顔気にしてる雲雀に、惚れたね」セリフのとおり陽菜はテンション高く「桜井と話してるの聞いててもさ、めっちゃクールじゃん? それなのに実は女顔気にしてるとか、かわいー!」
漫画だったら「クハーッ」なんて胸をいっぱいにする擬態語がついていそうだった。
「えー、私、それなら桜井くんのほうがいいよ」
桜井くんも雲雀くんもいないからか、陽菜の声を聞いた隣の女子が口を挟んだ。
「ベースが可愛いじゃん。雲雀くんにテッテッテッてついて行く感じ」
「いやいや、あれはおこちゃまだよ。男はもっと余裕をみせてくれないと」
「確かに雲雀くんのほうが上手そう」
「なにがだよ!」
陽菜は私そっちのけでケラケラと笑った。ただ、私が黙々とお弁当を食べてることに気付いたのか「英凜はどっち派?」とすぐに話題に引き込む。
でも桜井くんも雲雀くんも、昨日会って昨日話しただけの関係なので、勉強を教えてくれと言われたとはいえ、あんまり興味が湧いていなかった。今のところ分類もできていないし。
「……わかんない」
「……不思議だったんだけどさあ、英凜、男に興味あんの?」
あの二人の中身はともかくとして、外見を前にすれば興味を持たずにはいられないはずだ――それなりに長い付き合いなので、陽菜の考えていることは手に取るように分かった。
「あるよ、普通に」
「あんの? 中学のとき彼氏とかいなかったじゃん?」
「それはいなかったけど……」
「英凜は可愛いんだけどさあ、男に興味なさそうな顔してるんだよな。だから彼氏いないんだよな」
陽菜は中学三年生のときに彼氏がいて、卒業する前に別れていた。理由は「高校が違うから」。そんなところまで、陽菜は陽菜らしい。
「ないことはないんだけど、興味を顔に出す方法が分からないというか……」
「お前マジで表情筋死んでるもんな」
「あ、私、実は陰で三国さんのことクールビューティーって呼んでた」
何の気なしに校舎の外を見ると、桜井くんと雲雀くんが財布片手に外へと向かうのが見えた。春の日差しの下で、二人の髪色はそれぞれきらきらと輝いている。
なんか、いいなあ、と。仲良さげな二人を見ながら、そんな漠然とした羨ましさを抱いた。



