『……つまりこの動画が最初から撮れてること自体が美人局の証拠ってことか?』
咄嗟に設置したのであればこんなに綺麗に撮ることはできない、部屋に入ってから撮影が始まるまでにあるはずのタイムラグがない、そして本来途中退出不可の部屋。これだけの要素があれば美人局に使うために撮影したとしか言うことはできない。
『そう。でもちょっと音声が悪い。理想はドアが開いて閉まる音も入ってること……』
『理想だろ? いくらでもごり押しできるんじゃね』
『……できれば確たる証拠を突き付けて優位に立ちたい』
ふむ、と考え込んだ。
『捏造しよう』
『は?』
『……つまりまた三国とラブホ行って扉の音する動画撮るってこと?』
『うん』
確たる証拠のためにはそれが一番いい。頷けば、桜井くんと雲雀くんは揃って顔を見合わせて額を押さえた。
『いいんだけどさあ……これどっちが行く? 3人分の金もったいなくない?』
『……手出さないよな?』
『出しません。三国に手出したら蛍さんに殺されるつーか三国のばあちゃんの顔見れない』
『……じゃんけんで決めるか』
『この流れで! 俺信用されてないの!』
昨日の作戦会議の概要と部室でのやり取りを簡潔に伝えると、蛍さんはげらげらと笑い出した。
「お前よくやったな! 証拠の片方はブラフかよ!」
「本来的にはそんなものがなくても充分だったんですが、群青に手を出させないようにするためにはこっちが脅迫材料を得ておく必要があったので」
「てか三国ちゃん、見かけによらず黒いこと考えるね? 50万円恐喝されてたことにしたんでしょ? 10万円と50万円じゃ、まあ知らないけど、そりゃ50万円のほうが警察駆け込まれたときに怖いよね」
「それは乗ってきた向こうが浅はかなので……」
「あさはか!」
能勢さんはお腹を抱えて笑う。隣の中津くんはただただ「マジすげぇっす、感動しました」と頷いている。
「お前はマジで三国に感謝しろよ」
「はい! マジで感謝してます、姐さん」
「……姐さん……?」
奇妙な呼称に怪訝な反応をしてしまった。蛍さんは吹き出したし、能勢さんはもう完全に笑い上戸となっているし、この先輩たちは全く使い物にならない。
「……姐さんって」
「本当は姐御って呼びたいんすけどね!」
「やめて。お願いやめてください」
同級生の男子に姐御だの姐さんだの呼ばれるなんて冗談じゃない。何も知らない人に聞かれたときにはなんと思われるか。
心底拒否して首を横に振っていると、隣の桜井くんは「そういえば三国呼びってなんかよそよそしいなあ」と中津くんに触発されたのか連想ゲームをしたのかよく分からないことを言い出した。
「もう英凜でよくね? 三国って長いし」
1文字しか変わらないんだけど。そう言いたかったけど桜井くんにそんな理屈は通じない。
「英凜呼びにしよ。三国ン家行ったらばーちゃんも三国も三国であれってなったし」
「……好きにしてくれていいけど」
「英凜、英凜」
うん、うん、と桜井くんは頷きながら何度か頷いた。その横顔はどことなく嬉しそうだ。
「三国も俺のこと昴夜でいいし。……三国じゃなくて英凜か」
「……別に無理して呼ばなくても」
「呼び方って大事じゃん、なんか三国って呼ぶと心の距離を感じる」
「んなこと言われたら俺らが三国って呼びにくいからやめろ」
蛍さんは呼ぶ気がないのだろう、そんなことを言いながら一方の眉を吊り上げた。
咄嗟に設置したのであればこんなに綺麗に撮ることはできない、部屋に入ってから撮影が始まるまでにあるはずのタイムラグがない、そして本来途中退出不可の部屋。これだけの要素があれば美人局に使うために撮影したとしか言うことはできない。
『そう。でもちょっと音声が悪い。理想はドアが開いて閉まる音も入ってること……』
『理想だろ? いくらでもごり押しできるんじゃね』
『……できれば確たる証拠を突き付けて優位に立ちたい』
ふむ、と考え込んだ。
『捏造しよう』
『は?』
『……つまりまた三国とラブホ行って扉の音する動画撮るってこと?』
『うん』
確たる証拠のためにはそれが一番いい。頷けば、桜井くんと雲雀くんは揃って顔を見合わせて額を押さえた。
『いいんだけどさあ……これどっちが行く? 3人分の金もったいなくない?』
『……手出さないよな?』
『出しません。三国に手出したら蛍さんに殺されるつーか三国のばあちゃんの顔見れない』
『……じゃんけんで決めるか』
『この流れで! 俺信用されてないの!』
昨日の作戦会議の概要と部室でのやり取りを簡潔に伝えると、蛍さんはげらげらと笑い出した。
「お前よくやったな! 証拠の片方はブラフかよ!」
「本来的にはそんなものがなくても充分だったんですが、群青に手を出させないようにするためにはこっちが脅迫材料を得ておく必要があったので」
「てか三国ちゃん、見かけによらず黒いこと考えるね? 50万円恐喝されてたことにしたんでしょ? 10万円と50万円じゃ、まあ知らないけど、そりゃ50万円のほうが警察駆け込まれたときに怖いよね」
「それは乗ってきた向こうが浅はかなので……」
「あさはか!」
能勢さんはお腹を抱えて笑う。隣の中津くんはただただ「マジすげぇっす、感動しました」と頷いている。
「お前はマジで三国に感謝しろよ」
「はい! マジで感謝してます、姐さん」
「……姐さん……?」
奇妙な呼称に怪訝な反応をしてしまった。蛍さんは吹き出したし、能勢さんはもう完全に笑い上戸となっているし、この先輩たちは全く使い物にならない。
「……姐さんって」
「本当は姐御って呼びたいんすけどね!」
「やめて。お願いやめてください」
同級生の男子に姐御だの姐さんだの呼ばれるなんて冗談じゃない。何も知らない人に聞かれたときにはなんと思われるか。
心底拒否して首を横に振っていると、隣の桜井くんは「そういえば三国呼びってなんかよそよそしいなあ」と中津くんに触発されたのか連想ゲームをしたのかよく分からないことを言い出した。
「もう英凜でよくね? 三国って長いし」
1文字しか変わらないんだけど。そう言いたかったけど桜井くんにそんな理屈は通じない。
「英凜呼びにしよ。三国ン家行ったらばーちゃんも三国も三国であれってなったし」
「……好きにしてくれていいけど」
「英凜、英凜」
うん、うん、と桜井くんは頷きながら何度か頷いた。その横顔はどことなく嬉しそうだ。
「三国も俺のこと昴夜でいいし。……三国じゃなくて英凜か」
「……別に無理して呼ばなくても」
「呼び方って大事じゃん、なんか三国って呼ぶと心の距離を感じる」
「んなこと言われたら俺らが三国って呼びにくいからやめろ」
蛍さんは呼ぶ気がないのだろう、そんなことを言いながら一方の眉を吊り上げた。



