今津が重々しく告げる横で、園田さんは巻き込まれまいとでもするようにそっとソファを立ち、部室の隅に移動する。
「いまここで、その録音ぶっ壊して、ついでにお前らが何も言えないようにすればいいんだろ?」
……やっぱりそう来た。蛍さんと能勢さんに言われたとおりだとしても、いざ脅されると怖くないわけがない。背後はソファで後ずさることもできない。辛うじて隣の雲雀くんのスカートを掴んで心を落ち着けた。
「……外には蛍さんがいますよ」
「隣の部室に控えてっから大丈夫だよ」
……蛍さん達に部室棟の階段さえ上らせなかったのはそういうわけか。さすがの蛍さん達も部室棟に上ることさえできなければ来るまでに時間がかかる。
「とりあえず、大人しくそれは渡しな」
手の中にある録音機をぎゅっと握り締め、そっと雲雀くんを見上げた。雲雀くんの目は、ややあって──私を睨むように見返した。
……普段の雲雀くんを知っていると、分かる。これは、怒りのあまり、私に向ける視線を切り替える余裕さえなくなっている顔だ。
「……それ持ってな、三国」
「え?」
小さく頓狂な声を上げたのは私ではなく、男の声に驚いた白雪のメンバー達だった。
そこから先の雲雀くんは素早かった。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、怯んだ隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机の上の灰皿を掴んだかと思うと部屋の隅に向かって放り投げ、投げられた先にいた1人がゲッだかなんだか声を上げて怯んでいる隙に別の1人の胸座を掴んでもう1人に叩きつけるように投げ、灰皿で怯んでいた1人を殴打。
計4人がものの10秒で戦闘不能になるさまを見せつけられ、私はポカンと間抜けに口を開けて立ち尽くした。ただ当の本人は苛立ちが収まらないらしく、ソファから叩き落した今津の胸をスニーカーで踏みつけた。うえ、と今津が小さく呻く。
「キーキー喚いてねぇで謝れつってんだよ。お前自分の立場分かってんのか?」
完全に立場が逆転した。録音機を握り締める私の前では、やたら綺麗で背の高い美女が低い男の声で今津を脅している。
「お前らを少年院にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ。録音消せばいいだの俺ら脅せばいいだの、この期に及んでセコイこと考えようとすんじゃねえ。お前らが選べる立場にねーんだよ」
雲雀くんにしっかりと脅された今津は、ぶるぶると小刻みに震えながら首を横に振った。それが余計に雲雀くんを苛立たせたらしく「あぁ? テメェマジでサルか? 喋れねぇのかよ。この口要らねーのか?」口に足を突っ込む勢いだ。蛍さんのいうとおり、雲雀くんに来てもらって正解だった。私でさえ怯えてしまうほど、雲雀くんの怖さは圧倒的だ。
一昨日といい、桜井くんと雲雀くんが“死二神”なんて揶揄されていたという話は、こうして忘れた頃に思い出す。味方なら頼もしいけれどこれが敵だったらと思うだけでゾッと背筋が震える。
「分かった……分かった、金は要らない……群青からは手を引く……」
「分かったら中津の動画のデータ出しな。早くしろよ、俺今日クソ機嫌悪いからな」
……本当に、味方で頼もしいし、私の身の安全のために悪かったな、と。
「いまここで、その録音ぶっ壊して、ついでにお前らが何も言えないようにすればいいんだろ?」
……やっぱりそう来た。蛍さんと能勢さんに言われたとおりだとしても、いざ脅されると怖くないわけがない。背後はソファで後ずさることもできない。辛うじて隣の雲雀くんのスカートを掴んで心を落ち着けた。
「……外には蛍さんがいますよ」
「隣の部室に控えてっから大丈夫だよ」
……蛍さん達に部室棟の階段さえ上らせなかったのはそういうわけか。さすがの蛍さん達も部室棟に上ることさえできなければ来るまでに時間がかかる。
「とりあえず、大人しくそれは渡しな」
手の中にある録音機をぎゅっと握り締め、そっと雲雀くんを見上げた。雲雀くんの目は、ややあって──私を睨むように見返した。
……普段の雲雀くんを知っていると、分かる。これは、怒りのあまり、私に向ける視線を切り替える余裕さえなくなっている顔だ。
「……それ持ってな、三国」
「え?」
小さく頓狂な声を上げたのは私ではなく、男の声に驚いた白雪のメンバー達だった。
そこから先の雲雀くんは素早かった。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、怯んだ隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机の上の灰皿を掴んだかと思うと部屋の隅に向かって放り投げ、投げられた先にいた1人がゲッだかなんだか声を上げて怯んでいる隙に別の1人の胸座を掴んでもう1人に叩きつけるように投げ、灰皿で怯んでいた1人を殴打。
計4人がものの10秒で戦闘不能になるさまを見せつけられ、私はポカンと間抜けに口を開けて立ち尽くした。ただ当の本人は苛立ちが収まらないらしく、ソファから叩き落した今津の胸をスニーカーで踏みつけた。うえ、と今津が小さく呻く。
「キーキー喚いてねぇで謝れつってんだよ。お前自分の立場分かってんのか?」
完全に立場が逆転した。録音機を握り締める私の前では、やたら綺麗で背の高い美女が低い男の声で今津を脅している。
「お前らを少年院にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ。録音消せばいいだの俺ら脅せばいいだの、この期に及んでセコイこと考えようとすんじゃねえ。お前らが選べる立場にねーんだよ」
雲雀くんにしっかりと脅された今津は、ぶるぶると小刻みに震えながら首を横に振った。それが余計に雲雀くんを苛立たせたらしく「あぁ? テメェマジでサルか? 喋れねぇのかよ。この口要らねーのか?」口に足を突っ込む勢いだ。蛍さんのいうとおり、雲雀くんに来てもらって正解だった。私でさえ怯えてしまうほど、雲雀くんの怖さは圧倒的だ。
一昨日といい、桜井くんと雲雀くんが“死二神”なんて揶揄されていたという話は、こうして忘れた頃に思い出す。味方なら頼もしいけれどこれが敵だったらと思うだけでゾッと背筋が震える。
「分かった……分かった、金は要らない……群青からは手を引く……」
「分かったら中津の動画のデータ出しな。早くしろよ、俺今日クソ機嫌悪いからな」
……本当に、味方で頼もしいし、私の身の安全のために悪かったな、と。



