「……警察にこの動画を出して中津くんに無理矢理されそうになったと話しても、2人で仲良く部屋に入ってからベッドに入るまでが映ってる動画は、そんな無理矢理されたなんて証拠にはなりません。編集してカットしても履歴が残る。……中津くんが無理矢理した証拠はどこにもないです」
ドクンドクンと心臓がうるさく鳴り続けている。今にも心臓が口から飛び出そうだった。
そっと雲雀くんに手を差し出す。雲雀くんは無言でパーカーのポケットから録音機を取り出した。
カチリと録音停止ボタンを押す。録音時間がこの部室に入ってから今までの時間と概ね一致していることくらい、それこそサルでも分かる。
「……この動画は予め部屋にセットして録画されたものだった。そしてこの録音は、その動画をネタにあなた達が50万を強請った証拠です」
「……何言ってやがる、こっちが言ったのは──」
「50万円です。録音されているのは、50万円を出せという発言なんですから」
ただし、概ね、だ。私がでたらめな相場を口にしたこととそれに乗って美人局側が金額を吊り上げたなんてことの記録はない。
「50万円の恐喝……恐喝する金額が高ければ高いほど悪質性が高いと判断される、分かりますよね?」
後から切り取れば痕跡が残る。だったら最初から切り取ったものを作ればいい。
私達が作った証拠は、この人達に50万円を恐喝されたことと、園田さんが矛盾した言動を繰り返したこと、それしか証明しない。
「……言っとくけどこっちも録音──」
「してないですよね」
園田さんの発言は、あまりにもお粗末なブラフだ。
「だって今の状況を録音してもそちら側に得はない。録音できるのは金を出せと執拗に求めて怒鳴る声と、頑なに男が怖いと言い張るにもかかわらず平気で男に囲まれている園田さんの矛盾した行動だけ。そちら側が美人局をした証拠にしかなりません。そんなものの録音をしているはずがない」
園田さんは口を噤んだまま開こうとしなかった。喋れば喋るだけボロが出ると分かっている。でももう充分に喋ってもらったから問題はない。
「あるのは、美人局の証拠だけです。……美人局は恐喝です。私達のお金は取られてないので恐喝未遂でしょうか。でも今までの人達からはしっかりお金を取ったんですよね。全部でいくら貰ったんでしょう。50万? もしかして100万? 一発で少年院に行くには充分な金額ですね」
ジジ……と再び今津の煙草が燃え進む音が聞こえる。その煙草からはついに灰が零れた。
緊張で再び喉が鳴る。これで最後だ。
「この動画とこの録音、これを私達が警察に持って行けばおしまいです。分かったら、二度と群青に手を出さないでください」
ポツ……ポツ……と水滴が断続的に落ちる音が聞こえている。部屋の中の誰も口を開かなかった。今津の指には力が籠り、煙草を指の間で潰しそうになっていた。
そっと雲雀くんを見ると、顎で出口のほうを示された。もう充分だから帰っていい、という意味だろう。
雲雀くんが先に立ち上がり、それに続いて立ち上がった瞬間「待ちな」……今津の声に止められた。振り返ると、今津は机の上の灰皿でぎゅっと煙草を揉み潰しているところだった。
「……つまり今の話を整理すると、こういうことか」
ドクンドクンと心臓がうるさく鳴り続けている。今にも心臓が口から飛び出そうだった。
そっと雲雀くんに手を差し出す。雲雀くんは無言でパーカーのポケットから録音機を取り出した。
カチリと録音停止ボタンを押す。録音時間がこの部室に入ってから今までの時間と概ね一致していることくらい、それこそサルでも分かる。
「……この動画は予め部屋にセットして録画されたものだった。そしてこの録音は、その動画をネタにあなた達が50万を強請った証拠です」
「……何言ってやがる、こっちが言ったのは──」
「50万円です。録音されているのは、50万円を出せという発言なんですから」
ただし、概ね、だ。私がでたらめな相場を口にしたこととそれに乗って美人局側が金額を吊り上げたなんてことの記録はない。
「50万円の恐喝……恐喝する金額が高ければ高いほど悪質性が高いと判断される、分かりますよね?」
後から切り取れば痕跡が残る。だったら最初から切り取ったものを作ればいい。
私達が作った証拠は、この人達に50万円を恐喝されたことと、園田さんが矛盾した言動を繰り返したこと、それしか証明しない。
「……言っとくけどこっちも録音──」
「してないですよね」
園田さんの発言は、あまりにもお粗末なブラフだ。
「だって今の状況を録音してもそちら側に得はない。録音できるのは金を出せと執拗に求めて怒鳴る声と、頑なに男が怖いと言い張るにもかかわらず平気で男に囲まれている園田さんの矛盾した行動だけ。そちら側が美人局をした証拠にしかなりません。そんなものの録音をしているはずがない」
園田さんは口を噤んだまま開こうとしなかった。喋れば喋るだけボロが出ると分かっている。でももう充分に喋ってもらったから問題はない。
「あるのは、美人局の証拠だけです。……美人局は恐喝です。私達のお金は取られてないので恐喝未遂でしょうか。でも今までの人達からはしっかりお金を取ったんですよね。全部でいくら貰ったんでしょう。50万? もしかして100万? 一発で少年院に行くには充分な金額ですね」
ジジ……と再び今津の煙草が燃え進む音が聞こえる。その煙草からはついに灰が零れた。
緊張で再び喉が鳴る。これで最後だ。
「この動画とこの録音、これを私達が警察に持って行けばおしまいです。分かったら、二度と群青に手を出さないでください」
ポツ……ポツ……と水滴が断続的に落ちる音が聞こえている。部屋の中の誰も口を開かなかった。今津の指には力が籠り、煙草を指の間で潰しそうになっていた。
そっと雲雀くんを見ると、顎で出口のほうを示された。もう充分だから帰っていい、という意味だろう。
雲雀くんが先に立ち上がり、それに続いて立ち上がった瞬間「待ちな」……今津の声に止められた。振り返ると、今津は机の上の灰皿でぎゅっと煙草を揉み潰しているところだった。
「……つまり今の話を整理すると、こういうことか」



