園田さんが面食らったように言葉に詰まった。
「仲良くしたら、好きだと勘違いされて連れ込まれたんですよね。他の“信用してる男友達”もそうなるんじゃないかと思いませんでしたか」
「それは信用してるからならないんだよ」
「こんなに男しかいない密室で私を待つのは怖くなかったですか」
「……信用してるから」
「信用してる男友達はこれで全部ですか」
「……まだいるけど」
「私が信用してる友達の数は同性でも片手が埋まらないんですけど、何人いるんですか?」
「みんな白雪の幹部だから」
「ところで学校に来てるって話してましたけど、怖くなかったですか?」
園田さんはいよいよ眉を顰めた。私の喉はカラカラに渇き始めている。でもまだ正念場すら来ていない。
「不特定多数の男の視線に晒される学校って、怖くなかったですか」
園田さんの表情は動かなかった。俗に言う図星をつかれて固まった結果だった。
嘘なのは分かっているのだ。それなら気後れすることなんてなにもない。そして所詮同い年の子供が考えることなんて詰めが甘いし杜撰に決まってる。そうとなればその嘘を崩すのは当然に簡単だ。
「さっきからゴチャゴチャ言ってるけどよォ、要は金払うつもりがないんだろ?」
ドン、と今津が足を机に上げた。
嘘を崩すのは簡単だ。ただ、この人達が論理と理屈で納得する相手であるかは別。
「言ってるよな、50万払わないなら警察駆け込むって。いいよ、帰りな。俺達は警察行くから」
「警察行って、どうするんですか?」
「あ?」
「警察行く、警察行くってずっと言ってますけど、それってなんなんですか?」
パチンと携帯電話を開いて見せる。そこには中津くんに送ってもらった動画がある。
「なんでこんなに都合よく動画を撮ることができたんでしょう」
「コイツがさァ、よく男に連れてかれんだよ。だからなんかあったらちゃんと動画撮っとけって言ってんだ」
「本当に?」
ドキリドキリと心臓がうるさく鳴っていた。園田さんを親指で示す今津の前で動画を振る。
「男に連れて行かれたら動画を撮るように伝えていたから、撮ることができた?」
「そーだよ」
「じゃあこれは部屋に連れ込まれた後にセットして撮ったんですね」
「そうだつってんだろ」
「間違いない? 園田さんが身の危険を感じて咄嗟にセットした?」
「何回も言わせんじゃねえ、さっきから何が言いたい?」
執拗な念押しに、今津が大声で怒鳴った。ドクリとまた心臓が大きく鳴る。
「この動画、ちゃんと見ました?」
ゴクリと緊張で喉が鳴る。カチリと動画を再生した。
小さな画面の中でガチャ、バタンと音がした。その瞬間に動画を止める。
冒頭たった2秒かそこら。今津も園田さんも揃って眉を顰めた。
「……それが?」
「……これ、部屋の扉が開いて閉まる音です」パチンと携帯電話を閉じて「部屋に入った後にセットしたんだったら、そんな音は入らないんです」
バラバラと絶えず聞こえていた、古い屋根に水が落ちる音が聞こえなくなっていた。雨が止んだのだ。ポツ……ポツ……とどこかの窪みに引っ掛かった雨粒がためらいがちに落ちるだけの中に、ジジ……と今津の煙草が燃え進む音が混ざった。そのくらい、室内は静かだった。
「仲良くしたら、好きだと勘違いされて連れ込まれたんですよね。他の“信用してる男友達”もそうなるんじゃないかと思いませんでしたか」
「それは信用してるからならないんだよ」
「こんなに男しかいない密室で私を待つのは怖くなかったですか」
「……信用してるから」
「信用してる男友達はこれで全部ですか」
「……まだいるけど」
「私が信用してる友達の数は同性でも片手が埋まらないんですけど、何人いるんですか?」
「みんな白雪の幹部だから」
「ところで学校に来てるって話してましたけど、怖くなかったですか?」
園田さんはいよいよ眉を顰めた。私の喉はカラカラに渇き始めている。でもまだ正念場すら来ていない。
「不特定多数の男の視線に晒される学校って、怖くなかったですか」
園田さんの表情は動かなかった。俗に言う図星をつかれて固まった結果だった。
嘘なのは分かっているのだ。それなら気後れすることなんてなにもない。そして所詮同い年の子供が考えることなんて詰めが甘いし杜撰に決まってる。そうとなればその嘘を崩すのは当然に簡単だ。
「さっきからゴチャゴチャ言ってるけどよォ、要は金払うつもりがないんだろ?」
ドン、と今津が足を机に上げた。
嘘を崩すのは簡単だ。ただ、この人達が論理と理屈で納得する相手であるかは別。
「言ってるよな、50万払わないなら警察駆け込むって。いいよ、帰りな。俺達は警察行くから」
「警察行って、どうするんですか?」
「あ?」
「警察行く、警察行くってずっと言ってますけど、それってなんなんですか?」
パチンと携帯電話を開いて見せる。そこには中津くんに送ってもらった動画がある。
「なんでこんなに都合よく動画を撮ることができたんでしょう」
「コイツがさァ、よく男に連れてかれんだよ。だからなんかあったらちゃんと動画撮っとけって言ってんだ」
「本当に?」
ドキリドキリと心臓がうるさく鳴っていた。園田さんを親指で示す今津の前で動画を振る。
「男に連れて行かれたら動画を撮るように伝えていたから、撮ることができた?」
「そーだよ」
「じゃあこれは部屋に連れ込まれた後にセットして撮ったんですね」
「そうだつってんだろ」
「間違いない? 園田さんが身の危険を感じて咄嗟にセットした?」
「何回も言わせんじゃねえ、さっきから何が言いたい?」
執拗な念押しに、今津が大声で怒鳴った。ドクリとまた心臓が大きく鳴る。
「この動画、ちゃんと見ました?」
ゴクリと緊張で喉が鳴る。カチリと動画を再生した。
小さな画面の中でガチャ、バタンと音がした。その瞬間に動画を止める。
冒頭たった2秒かそこら。今津も園田さんも揃って眉を顰めた。
「……それが?」
「……これ、部屋の扉が開いて閉まる音です」パチンと携帯電話を閉じて「部屋に入った後にセットしたんだったら、そんな音は入らないんです」
バラバラと絶えず聞こえていた、古い屋根に水が落ちる音が聞こえなくなっていた。雨が止んだのだ。ポツ……ポツ……とどこかの窪みに引っ掛かった雨粒がためらいがちに落ちるだけの中に、ジジ……と今津の煙草が燃え進む音が混ざった。そのくらい、室内は静かだった。



