白雪──通称白雪は黒壇高校の生徒を中心に徒党を組んでいる。その白雪が好んで使っているのは古い部室棟で、勝手に壁に穴をあけていくつかの部屋を繋げて使っているのだそうだ。ただ個室は個室でほしいという理由で全ての部室が繋がっているわけではない。
中津くんがお金を持ってこいと指定されたのは、その部室棟の一角にあるサッカー部の部室だ。
バラバラと激しい雨が降る夕方6時過ぎ、傘を差して部室棟の前まで来た私はおそるおそる棟を見上げる。見た目は普通の部室棟で、ちょっと手入れが行き届いていないな程度の汚さだ。
その部室棟の2階から「どーもォ」と男子の声が聞こえて私達は顔を上げる。桜井くんと体格の変わらない、小柄な男子だった。
「群青のNo.1と2まで揃って来てもらって、悪いねえ。いいんだよ、来るのはそこの女子2人で」
桜井くんがゲフッと変な咳をしながら傘に表情を隠した。雲雀くんの顔は見えないけれど、見なくたって桜井くんを睨んでいるのが分かる。きっとこんな状況でなければ蹴っているだろう。
問題のサッカー部部室に入ることができるのは女子だけ。つまり入ることができるのは私と──女装した雲雀くんだけだ。
服は、曰く能勢さんのお姉さんのもので、薄手のプルダウンタイプのパーカーと白いレースのロングスカートだ。ややだぼっとした印象になるけれど梅雨の時期に男の骨格を隠せる服装となるとこれしかなかったらしい。
化粧はなんと牧落さん監修。桜井くんの家にて、雲雀くんが最高に不機嫌な中で喜々として化粧を施してくれた。桜井くんはずっとお腹を抱えて笑っていた。
でもそれも化粧の途中までで、服を着替え化粧をさせられ茶色のウィッグをかぶらされた雲雀くんは、桜井くんが笑わなくなるほどの美人だった。蛍さんもやってきた雲雀くんを見て「……お前マジか」とぐうの音も出なかったくらいだ。
よく見れば眉の吊り上がり方や顔の輪郭が男なのだけれど、化粧と髪に隠れるとあまり目立たない。背の高さも気になるところではあるけれど、そこは雲雀くんが細身なお陰でなんとかなった。
結果、部室棟からこちらに声をかけた白雪の男子から見れば私と雲雀くんの2人が女子に見える、と……。雲雀くんをちらりと見上げると、これが殺気というやつかと言えそうなほど不機嫌さを露わにしている。雲雀くんがこんなことになっている原因は半分私なので、無事に終わったら私からも謝ることに決めた。
「お前らのテリトリーで女子2人にするわけにはいかねーだろ。要はその女と顔合わせなけりゃいいんだろ、俺らは外にいさせてもらう」
その「俺ら」の中に含まれているのは、蛍さん、能勢さん、桜井くんに中津くんだ。中津くんはともかくとして群青の精鋭が揃っているに等しいその状況に、白雪の男子は「ふーん……」とやはり警戒する。
「そんなぞろぞろいられても怖いと思うんだよね。サッカー部の部室はここだから、そこの2人だけ上に来な」
「部室の前にいるのはいいだろ」
「外にぞろぞろいても怖いと思うって言っただろ、特に蛍。お前らは下だ」
蛍さんは雨の中で小さく舌打ちした。想定通りではあるのだろう。
「……雲雀、よろしくな」
雲雀くんは無言だった。さすがに声が可愛くなさすぎるので今日の雲雀くんは無言を強いられている。
中津くんがお金を持ってこいと指定されたのは、その部室棟の一角にあるサッカー部の部室だ。
バラバラと激しい雨が降る夕方6時過ぎ、傘を差して部室棟の前まで来た私はおそるおそる棟を見上げる。見た目は普通の部室棟で、ちょっと手入れが行き届いていないな程度の汚さだ。
その部室棟の2階から「どーもォ」と男子の声が聞こえて私達は顔を上げる。桜井くんと体格の変わらない、小柄な男子だった。
「群青のNo.1と2まで揃って来てもらって、悪いねえ。いいんだよ、来るのはそこの女子2人で」
桜井くんがゲフッと変な咳をしながら傘に表情を隠した。雲雀くんの顔は見えないけれど、見なくたって桜井くんを睨んでいるのが分かる。きっとこんな状況でなければ蹴っているだろう。
問題のサッカー部部室に入ることができるのは女子だけ。つまり入ることができるのは私と──女装した雲雀くんだけだ。
服は、曰く能勢さんのお姉さんのもので、薄手のプルダウンタイプのパーカーと白いレースのロングスカートだ。ややだぼっとした印象になるけれど梅雨の時期に男の骨格を隠せる服装となるとこれしかなかったらしい。
化粧はなんと牧落さん監修。桜井くんの家にて、雲雀くんが最高に不機嫌な中で喜々として化粧を施してくれた。桜井くんはずっとお腹を抱えて笑っていた。
でもそれも化粧の途中までで、服を着替え化粧をさせられ茶色のウィッグをかぶらされた雲雀くんは、桜井くんが笑わなくなるほどの美人だった。蛍さんもやってきた雲雀くんを見て「……お前マジか」とぐうの音も出なかったくらいだ。
よく見れば眉の吊り上がり方や顔の輪郭が男なのだけれど、化粧と髪に隠れるとあまり目立たない。背の高さも気になるところではあるけれど、そこは雲雀くんが細身なお陰でなんとかなった。
結果、部室棟からこちらに声をかけた白雪の男子から見れば私と雲雀くんの2人が女子に見える、と……。雲雀くんをちらりと見上げると、これが殺気というやつかと言えそうなほど不機嫌さを露わにしている。雲雀くんがこんなことになっている原因は半分私なので、無事に終わったら私からも謝ることに決めた。
「お前らのテリトリーで女子2人にするわけにはいかねーだろ。要はその女と顔合わせなけりゃいいんだろ、俺らは外にいさせてもらう」
その「俺ら」の中に含まれているのは、蛍さん、能勢さん、桜井くんに中津くんだ。中津くんはともかくとして群青の精鋭が揃っているに等しいその状況に、白雪の男子は「ふーん……」とやはり警戒する。
「そんなぞろぞろいられても怖いと思うんだよね。サッカー部の部室はここだから、そこの2人だけ上に来な」
「部室の前にいるのはいいだろ」
「外にぞろぞろいても怖いと思うって言っただろ、特に蛍。お前らは下だ」
蛍さんは雨の中で小さく舌打ちした。想定通りではあるのだろう。
「……雲雀、よろしくな」
雲雀くんは無言だった。さすがに声が可愛くなさすぎるので今日の雲雀くんは無言を強いられている。



