焔夜の眉がわずかに上がった。
「高貴だと? ふん、人間の決めたくだらぬルールだ。神が選ぶのは心の清らかさだ」
彼の言葉に、葵の胸が熱くなった。誰もそんな風に自分を認めてくれたことなどなかった。
だけれど、すぐに現実が彼女を冷やした。
「でも、私には着物も、準備も何もないんです」
焔夜は静かに微笑んだ。それは、葵が初めて見る彼の笑顔だった。その笑みに少し胸が高鳴る。
「その心配は無用だ。桜ノ神が汝を見ている」
彼はそう言うと、ふいに姿を消した。葵は呆然と立ち尽くし、濡れた手を見つめた。あの冷たい指先の感触が、なぜか温かく残っていた。



