「また会ったな、葵」


 焔夜の声は低く、どこか冷たい響きを持っていた。だが、葵を見つめる赤い瞳には、昨日とは異なる柔らかさがあった。葵は洗濯物を落としそうになり、慌てて立ち上がった。


「あ、あなたは…! どうしてここに…?」

 焔夜は一歩近づき、葵のひび割れた手をそっと取った。その冷たい指先に、葵は思わず身をすくめたが、彼の手は驚くほど優しく、彼女の手を包み込んだ。


「汝の手、まるで枯れ木のようだ。こんな暮らしを強いられている自在にしているのか?」


 葵は顔を赤らめ、目をそらした。


「……私のことは、気にしないでください」


 だが、焔夜は葵の手を離さず、じっと見つめた。


「気にしないわけにはいかぬ。汝は桜ノ神に祈りを捧げた者だ。私の目に留まった以上、見捨てることはできぬ」


 葵の心臓がドキリと高鳴った。桜ノ神?

 まさか、この人が…? 彼女は言葉を失い、ただ焔夜を見つめた。彼は葵の手をそっと離し、言った。


「神子選定の儀式が近い。汝も参加するのだな?」


 葵は首を振った。

「私には無理です。継母が許してくれません。神子は高貴な家の娘でなければ」