葵が神子として迎えられてから数ヶ月が経ち、穏やかな活気に満ちていた。村人たちは葵の祈りにより豊作と平和を享受し、彼女を「桜の聖女」と呼び、敬愛した。

 葵は毎朝、桜ノ神の聖域で祈りを捧げ、国の繁栄を願った。純白の神子装束に身を包み、桜の簪を髪に挿した彼女は、かつての虐げられた少女の面影をほとんど残していなかった。

 ある朝、葵は神殿の裏庭で、村の子どもたちに囲まれていた。
 彼らは葵の手作りの花冠を手に、笑顔で駆け寄った。


「葵様! これ、作ったの! 似合うよ!」


 葵は微笑み、花冠を受け取って頭に載せた。


「ありがとう。みんなの笑顔が、私の宝物だよ」


 子どもたちがはしゃぐ中、葵の心には温かい光が広がった。かつて、継母の貴代や姉妹の美桜、華桜に虐げられ、笑うことさえ忘れていた自分が、こんな幸せを感じられるなんて。

 だが、夜になると、葵は時折、納屋の暗闇や姉妹の嘲笑を夢に見た。神子としての務めを果たす自信はあっても、過去の傷はまだ癒えきっていなかった。

 そんな夜、焔夜はいつもそばに現れた。