試練の後、葵は神殿の裏庭で一人、桜の木の下に座っていた。彼女の心は、喜びと不安で揺れていた。
自分が神子に近づいている――そんな現実が、信じられないほどだった。そこに、焔夜が静かに現れた。
「葵、なぜそんな顔をしている? 汝は試練を乗り越えたのだぞ」
葵はうつむき、呟いた。
「私…本当に神子になれるんでしょうか? 美桜姉様の言う通り、私なんかが…」
焔夜は葵の側に膝をつき、彼女の顔を上げさせた。彼の赤い瞳が、月光に映えて輝いていた。
「汝は自分を低く見すぎる。私の目には、汝がこの国で最も輝く魂だ」
彼は葵の頬にそっと手を当て、続けた。
「私は神として、多くの人間を見てきた。だが、汝のように、私の心を動かす者は初めてだ。葵、汝は私の…」
彼は言葉を切り、初めて照れたように目をそらした。葵の心臓が激しく鼓動し、彼女は思わず言った。
「焔夜様…私、あなたのそばにいられるなら、どんな試練でも頑張れます」
焔夜の瞳が揺れ、彼は葵の手を強く握る。
「ならば、約束だ。汝が神子となる日まで、私は汝を守る」
その瞬間、桜の木から花びらが舞い、二人の周りを包んだ。葵は焔夜の手の温かさに、初めて恋心のようなものを自覚する。
彼女は頬を染め、そっと微笑んだ。
「ありがとう…焔夜様」
だが、その時、神殿の奥から紫苑の声が響いた。
「葵、来なさい。神子選定の最終試練が、明朝に始まる」
葵は焔夜を見上げ、彼は頷いた。
「行け、葵。汝の道は、私が開く」



