桜の神子、愛に咲く




「時間がない。着替え、すぐに神殿へ向かうのだ」


 葵は振り返り、焔夜の姿を見た。彼の赤い瞳は月光に映え、まるで炎のように揺れている。葵は胸を押さえ、震える声で尋ねた。


「あなたは、本当に桜ノ神様なんですか? なぜ、私なんかに?」


 焔夜は一歩近づき、葵の額にそっと指を当てた。その冷たい触れ合いに、葵の心は不思議と落ち着く。


「汝の心が、私を呼んだ。純粋で、どんな苦しみにも穢れぬ魂。それが、私が汝を選んだ理由だ」


 葵の目から涙がこぼれた。誰も彼女をこんな風に見てくれたことなどなかった。彼女は決意を固め、着物を手に言った。


「……わかりました。行きます。神殿へ」


 焔夜は小さく頷き、彼女の手を取った。次の瞬間、風が巻き上がり、桜の花びらが二人を包む。

 葵が目を開けると、彼女は春霞村から遠く離れた、桜ノ国の神殿の門前に立っていた。