納屋の暗闇の中、葵は膝を抱え、震えていた。
美桜に奪われた桜色の着物、継母の冷たい言葉、そして閉ざされた扉――すべてが、彼女の小さな希望を押し潰そうとしていた。だが、焔夜の声が心に響いた瞬間、納屋の隙間から差し込む月光が、まるで導くように揺れた。
「葵、諦めるな。汝の心が、私を呼ぶ限り、道は閉ざされぬ」
葵はハッと顔を上げ、納屋の木の隙間を見つめた。そこには、桜の花びらが一枚、ふわりと舞い込んでいる。
花びらは淡く光り、彼女の手元で消えると同時に、納屋の鍵がカチリと音を立てて開いた。葵は目を疑い、恐る恐る扉を押した。軋む音とともに、扉は開き、夜の冷たい空気が彼女を包んだ。
「どうして…?」
葵は呟きながら外に出た。月明かりの下、納屋の前に新たな着物が置かれていた。
それは、前に焔夜が贈ったものよりもさらに美しい、純白に桜の花が浮かぶ神聖な装いだった。そばには、桜の枝でできた簪と、絹の帯が添えられている。葵は息を呑み、そっと着物を手に取った。その瞬間、背後で焔夜の声が響いた。



