「葵! 何ぼーっとしてるの!」


 美桜の鋭い声が葵を現実に引き戻した。彼女は扇子を振り、葵に命じた。


「私の着物の裾に付いた泥を今すぐ洗ってきなさい。神殿に行くのに、こんな汚れがあったら恥ずかしいわ」


 葵はうつむき、「はい、姉上」と答えて着物を受け取った。だが、美桜はわざと着物を床に落とし、葵の足元に広げた。


「ほら、早く拾いなさいよ。汚れたら、あんたのせいなんだから」


 華桜がくすくすと笑う中、葵は黙って着物を拾い、裏庭の川へと向かった。