○姉、美鶴の嫉妬

 だが、地上の村では、白雪の“昇り”に耐えきれぬ者がいた。

 姉・美鶴である。

 「なぜ白雪なの……っ! あの子は、私の後ろを歩くしかなかったのに!」

 神の花嫁に選ばれたのが妹と知った美鶴は、次第に狂気じみた妄執に囚われていく。

 「神に愛されるのがあの子なら……神ごと、壊してやる……!」

 美鶴は、かつて白雪の母が封じた“穢れ神”の封印へと近づいてゆく――。



○第三の試練と、契りの兆し

 最終の試練は「夜の祈祷」。夜暁尊の宮の頂で、神の名を三度呼び、共鳴せねばならない。
 それは、神と魂を繋ぐ“予契(よけい)”でもある。

 白雪は震える声で神の名を呼ぶ。

 「……夜暁様、わたくしは……あなたに、応えたいのです」

 その声に応じて、神の姿が現れる。

 「なぜ、そこまでして私のもとへ来た」

 「あなたが、わたしの心を見てくださったからです。
  誰も、気づいてくれなかったものを。
  だから、今度は……わたしがあなたの寂しさに、寄り添いたいのです」

 沈黙ののち、神が近づく。

 「……よくぞ、ここまで来たな」

 その言葉とともに、白雪の額に夜の印が浮かぶ。
 それは、神が花嫁にだけ授ける“契約の刻印”だった。

 審神、すべて合格。

 神の花嫁として、正式に迎えられた白雪。

 その日、夜暁尊は初めて、彼女の手を人の手のようにそっと握った。