○神の夢


 ある夜、白雪は神の夢を見る。

 そこはまだ世が始まったばかりの時。
 夜暁尊は、夜を守る神として、光の神々から忌避されていた。

 「闇は不吉。おまえは忌まわしき存在」

 誰もがそう言う中で、夜暁尊はただひとり、黙って夜を灯し続けていた。
 白雪は夢の中で、神の背に手を伸ばした。

 「あなたがいたから、夜は安らかで、美しかったのです」

 その言葉を、神は夢の中でも聞いていたらしい。

 朝、目覚めた白雪に、夜暁尊は初めて人らしい声で問うた。

 「そなたは……私の過去を見たのか?」

 白雪は頷いた。夢の中で見た、孤独な神の記憶。

 そして、こう言った。

 「わたしは、あなたが、誰にどう言われようとも――
  あなたのことを、美しいと思います」

 その瞬間、夜暁尊の胸に、長き時を越えて初めて、何かが落ちてきた気がした。