⚪︎神々の沈黙と民の祈り


 神々は再び、白雪を見つめる。
 彼女が夢喰いの妖を神力ではなく“母の祈り”で退けたことに、誰もが衝撃を受けていた。
 そして何より――人の里で、白雪の懐妊を聞いた民たちが、彼女とその子を讃える歌を捧げ始めていたのだ。


「白の雪より生まれし子 夜の神の手に抱かれて 暁に花を咲かせん 闇と光を結ぶ橋……」


 それは、神が最も恐れ、そして最も望む祈り――
 新たな神話の始まりだった。


 やがて、満月の夜。
 夜暁尊は神々の前で正式に宣言する。


「この子の名は――暁音(あかね)」

「白雪がくれた夜明けの音色だ。我が子は、神と人の橋となるだろう」


 神々は黙した。だが、もはや誰ひとり、白雪の存在を否定しなかった。
 この夜をもって、白雪は歴史上初めて「人の血を持つ神后」として、神界と人界に永くその名を刻むこととなる。