その夜。白雪は夜暁尊の腕に抱かれながら、そっと呟いた。
「わたしのせいで、あなたがすべてを捨てるなんて、望んでいません」
「違う。私は、ようやく“手に入れたい”と思えるものに出会ったのだ。神の座よりも、夜の支配よりも……そなたとこの子が欲しい」
白雪は小さく笑った。
「では、わたしも覚悟を決めましょう。神に嫁ぎ、神の子を産む者として――この子が、幸せに生きられるように愛してもらえるように生き抜いてみせます」
その言葉に、夜暁尊は深く頭を垂れた。
「ありがとう……私の夜に、光をくれた人よ」
しかし、神々すべてが黙っていたわけではなかった。
天穹に棲む天律の神・白耀(はくよう)大神は言う。
「ならば、神子の存在が“理”に背かぬことを証明してみせよ」
彼は天より、試練の使いを差し向ける。それは――白雪とその胎児に“天災”として降りかかる苦難だった。
突如、神域に“夢喰い”の妖が出現し、白雪の夢に侵入する。
夢の中で、白雪はこれから生まれるはずの子が、神にも人にも拒まれ、孤独の中で滅びる未来を見せられる。
白雪は苦しみにうなされながらも、夢の中でこう叫んだ。
「この子は、闇でも光でもない――夜明け(あかつき)です! 夜と朝のはざまに生き、ふたつの世界を繋ぐ者なのです!」
その叫びに応じるように、彼女の胎内の子がかすかに輝いた。その光を見て、妖は恐れ、消えていった。



